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2021年8月~9月 辻蕎麦便り

先月、白いベニバナを見て驚いた話を紹介しましたが、この夏はもうひとつ「お初にお目にかかります」がありました。

「コリンキー」。
これなに、と思われるかもしれませんが、野菜の名前なのです。
5月下旬にわがささやかな菜園に植える野菜の苗を求めて、ホームセンターなどを回っていた時に、ある店で苗の入ったポットが1個だけ売れ残ったようにぽつんと置かれていました。
時期的に苗販売のシーズンは最終盤で、大方のお店はコーナーを縮小するか撤収し始めています。
名前を見たら「コリンキー」。
連れ合いが「一度植えてみようよ」というので、何が何だか分からずにとりあえず「うん」。
葉がカボチャと似ているので、調べもせずにカボチャの脇に同じようなやり方で定植しました。

カボチャは暑くなり、花が咲くまで放置するのが常だったので、しばらくは他の野菜の定植作業や草取りなどに追われて目を向けることもありませんでした。
7月上旬、何気なくカボチャの様子をみたら、その一角にレモン色の小玉スイカ大のものが。
正直、「コリンキー」を植えたことすら忘れていたので、ちょっとびっくり。
そういえば、一本だけ何やらよく分からないままに植えたのがあった。
確か「コリンキー」。
慌てネットで調べたら、唯一生で食べられるカボチャの仲間。
しかも20年ほど前に大手種苗グループの山形県の会社が海外品種と国内品種を掛け合わせて作ったようで、農林水産省に品種登録されています。

野菜でも果物でも普通は熟してから収穫しますが、「コリンキー」は早採りがお薦め。
最初はレモン色をしていますが、熟すと赤みが差し始め、次第に濃いオレンジ色に変わっていきます。
サラダや浅漬け、スムージーなどで味わっていますが、こりこりした歯触りは実に心地よい。
匂いはなく、味も爽やかで癖がなくちびっ子たちにも好評です。

親蔓から子蔓、そして孫蔓へと旺盛に伸び、そこそこのスペースが埋め尽くされ足の踏み場もないほど。
特段の世話もしないのに花が次々と咲いては実を結び、大きくなっていく。
これがたった1本の苗から始まったとは。
お盆前後に気温が急降下した時は成長が鈍ったようですが、その後は再び実を付けて成長。
知人、友人にお裾分けする日々が続きました。
山形に生まれて20年ほどの野菜ですが、知らなかったのは自分だけでなく、知人、友人も「そういえば名前を聞いたことがある」程度で、ほとんどは初めてお目にかかったようです。
こんなこともあるんですね。

ソバ畑では白いうねりが果てしなく広がるようになりました。
香り豊かな新そばの季節が間近です。
楽しみにお待ちください。
(2021/08/29)

2021年7月~8月 辻蕎麦便り

「えっ、ベニバナの花が白い?赤いから紅花というんじゃないの」。
花の色が白いベニバナが咲いていると言われ、一瞬聞き間違えたのではないかと思いました。

ベニバナの花を見たことの無い人はとかく誤解しがちなのですが、別に真紅の花をつけているわけではありません。
黄色っぽいオレンジ色といった感じです。
ベニバナの花には黄色のサフロールイエローと紅色のカルタミンという2種類の色素が含まれており、この色素の割合がサフロールイエロー99%に対し、カルタミンは1%ですから黄色っぽく見えて当然なのでしょう。
もっとも枯れ始めるころになると次第にオレンジから濃い赤に変色してくるようです。

まさか白いベニバナがあるとは考えもしませんでした。
ベニバナの開花期は7月上旬です。
山形県内各地のベニバナ栽培地で行われる紅花祭りもほぼこの時期に行われます。
話を聞いたのは下旬に入ってからで、通常ならもう咲き終わっています。
ところが辻蕎麦から東に4、5㌔離れた天童市上貫津のベニバナ畑に行けばひょっとしたら目にすることが出来るかもしれないというのです。

山裾の段々畑に広がるサクランボやリンゴなどの果樹地帯を貫く道路を走っていくと、その一角に紅花畑がありました。
遠くに残雪を抱く月山がうっすら望めます。
花の大半は既に枯れており、残ったものも黒っぽい赤に変色し、みすぼらしい姿になっていました。
どこに白いベニバナが植えられているのか、なかなか見当がつきませんでした。
しばらく見回していると、完全に枯れて茶色に変色しているもののオレンジでも赤でもない花が。
ひょっとしてこれか。
ためつすがめつ眺めていたら、突然1輪だけ白いベニバナが目に飛び込んできました。
周囲に比べて茎が短く、隠れるような感じで咲いており、小ぶりの花がかすかな風に揺れ動き実に清楚な感じがします。
幻じゃない証拠にと、しっかりスマホで撮影。
焼けつくような猛暑日にわざわざ足を運んでくれてご苦労さんとでもいわれているようでした。

インターネットなどで調べたところ、米沢市の草木染染織作家の山岸幸一さんが20年ほど前、自分のベニバナ畑に咲いている数本の白い花を発見。
長年かけて隔離育成し、増やしてきたそうです。
農林水産省に品種登録もされています。
突然変異だったのでしょう。
身近にあるものでも案外知らないことは多いですね。
来年はぜひ開花期に訪れ、本来の色と白のコントラストを楽しみたいと思っております。

(2021/07/30)