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2021年5月~6月 辻蕎麦便り

 皐月。
月末になって衝撃的なニュースが入ってきました。
今シーズンのサクランボの収穫量が平年より30%以上も下回り、予想収穫量の公表を行って以来最低になりそうだというのです。
山形県は全国の生産量の約70%を占める「サクランボ王国」。
この減収がもたらす影響は少なくないでしょう。

 今シーズンは冬期間の大雪による枝折れやハウス倒壊などによる被害が懸念されましたが、それに追い打ちをかけたのが4月の霜害などです。
サクランボの開花は長年ゴールデンウイークの始まるころでしたが、ここ数年、桜の開花を追いかけるように早まってきていました。
以前より2週間前後前倒しになり、霜の被害を受けやすくなったのではないでしょうか。
先月は風雨も結構強く、それによっても雌しべが痛めつけられたようです。

 県やJAなどで組織する県さくらんぼ作柄調査委員会によりますと、今シーズンの県産サクランボの予想収穫量は平年比32%減の9500㌧ということです。
予想収穫量がこうして公表されるようになってから25年ほどになりますが、1万トンを下回ったのは初めてです。
ここ10年ほどの収穫量をみますと、ほぼ1万3千㌧から1万5千㌧の間で推移しております。
ちなみに昨年は1万3千㌧でした。
サクランボ農家は着果管理を徹底し、幾らかでも収量を上げようと懸命に作業を行っているということです。
初夏の味覚を楽しみにしている人々も多いだけに、1粒でも多く消費者に届くよう願っています。

 新緑が日一日と濃さを増す季節になりました。
「五月雨をあつめて早し最上川」。
俳句なんて無縁だよという人でもこれくらいはご存知でしょう。
もとの句は「五月雨を集めて涼し最上川」。
松尾芭蕉が奥の細道の旅中、最上川中流にある流域最大の船着き場・大石田で開かれた句会で作ったのが旧暦の5月29日でした。
暦的には新暦より1カ月近く後ということになりますが、地球温暖化の影響を考えれば、芭蕉が目にした新緑や五月雨を集めた最上川の河面の光景は今頃の時期とさして変わりないのではないでしょうか。

 最上川は富士川、球磨川と並ぶ三大急流のひとつ。
中流まではそれほどでもないのですが、庄内平野近くの下流になりますと見掛けのゆったりした大河の趣とは違い、中央部の流れはかなりの速さです。
随分前になりますが廃止寸前の渡し舟に乗せてもらった際、離岸してほどなくあまりの水圧の強さに「おい、おい、大丈夫かよ」と思わず船頭さんに声を掛けそうになりました。
川沿いに国道48号線やJR陸羽西線が走り山あいの空間が広がっている現代と違い、「おくのほそ道」で芭蕉は「左右山覆ひ、茂みの中に船を下す。(略)水みなぎって舟あやうし」と記しています。
五月雨で膨れ上がる河面を目にし、中流で感じた「涼し」などという風流を押しのけるような恐怖感を覚え、「早し」に改めたのではないでしょうか。
(辻蕎麦 2021/05/28)

2021年4月~5月 辻蕎麦便り

以前、日本列島では春と秋が極端に短くなり、夏と冬がくっついてしまうのではないかと愚痴ったことがあります。
今年の桜前線の北上スピードを見ていたら一段とその感を強くしました。

山形市で桜の開花宣言が行われたのは2日でした。
山形地方気象台によりますと平年より13日早く、これまでで最も早かった昨年の3日を1日だけですが抜いて記録更新したそうです。
この周辺のお花見といえば4月20日前後が普通でしたので、まさに「えっ、もう咲いたの」といった感じでした。

桜の咲く中での小学校の入学式といえば、テレビや新聞の写真でお目にかかる首都圏などの光景と思っていましたが、いつの間にか山形の景色になっていました。
満開の桜の下を初々しい一年生が保護者と学校に向かう姿を見ると、「春」の訪れの嬉しさが2倍にも3培にもなります。
こんな雰囲気の中で入学式をやりたかったなぁ。
ちょっぴり羨ましかったりして。
そんなことを考えていたら、冬と夏のニュースが。

山形県の中央にそびえる月山で、10日にスキー場開きが行われました。
全国でも名だたる豪雪地帯の月山。
積雪は10㍍を軽く超し、冬期間はリフトも雪に埋もれて使えなくなり、スキー場として機能しないのです。
その代わりに4月から7月ころまで楽しめ、夏スキーとして多くの愛好者で賑わいます。
数年前までは中旬ころに除雪作業を始め、大型連休の前にオープンするというのが定番でした。
まさかこんなに早くなるとは。
3月からの除雪作業ではさぞかし大変なのではないでしょうか。

「初夏の味覚さくらんぼをどうぞ」。
生産量日本一の山形県ですが、有名ブランド「佐藤錦」発祥の地の東根市で22日、サクランボ狩りのためのサクランボ園が開園しました。
昨年は新型コロナの感染拡大に伴い、多くのサクランボ園で中止しました。
今年は万全の予防策を講じながら楽しんでもらうということです。
6月中旬まではハウスものですが、その後は露地ものに移行します。

桜が咲いたらジャガイモの植え時といわれています。
10日過ぎに種芋を購入しようとホームセンターに向かって唖然としました。
なんと無情にも「売り切れ」の張り紙が。
仕方がないので次へ、ここも同じ。
次へ。
5店舗目でようやく手にすることが出来ました。
お店の担当者に理由を聞いたところ、昨年の猛暑や水害などでジャガイモ栽培に被害が出て、種芋は例年の3分の1くらいしか確保できなかったということです。

その数日後、夏野菜の種を求めてホームセンターに行った時のこと。
店員に「ジャガイモの種がないけど。どうなっているの」と熱心に質問している初老の男性がいました。
同じように家庭菜園を楽しんでいるのでしょう。
説明を聞き終え「今年はダメか」とつぶやきながら肩を落として帰って行きました。
いつもならこの時期はまだいろいろな種類の種芋が並んでいます。
毎年植えているものが植えられない。
こうした人は結構多かったかも。
あわやセーフだった身だけにその寂しさは他人事でありませんでした。

(辻蕎麦 2021/04/28)