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2024年 11月~12月号 辻蕎麦便り

酒田市の山居倉庫の西側にあるケヤキに衰えがみられ、樹勢回復の手当てを始めたというニュースを目にしました。
山居倉庫といえば米どころ庄内のシンボル。
もっともコメの保管倉庫としての役割は2022年に約130年の歴史の幕を閉じていますが。
ケヤキ並木と明治期に建てられた倉庫の取り合わせは実に風情があり、四季折々にいろいろな表情をみせてくれます。
吉永小百合さん出演のJR東日本のCMで記憶している人も多いのではないでしょうか。

1983年に放映された朝ドラ「おしん」の舞台として一気に有名になりました。
「おしん」の人気が高まるにつれ、観光客も急増。
訪れた人々が歩きやすいようにと、6年後に並木と倉庫の間に石畳を敷いたのですが、これがケヤキの巨木の根を痛める要因になったようです。
今回は幅約2㍍、長さ約170㍍ある石畳のうち約30㍍分を撤去。
土が固くなり過ぎた根の周辺の土を掘り返し、土壌改良を施しながら様子を見るということです。
晩秋の酒田特有の強風にあおられ褐色の枯れ葉が舞い上がる中、石畳を歩いたことを思い出します。
来春には生命力あふれる姿をぜひ取り戻してほしいものです。 

果樹や庭木を剪定して出る枝などを焼却するため数年前から菜園で簡易ストーブを使っています。
気温が高めとはいえ、やはり11月。
太陽が雲にさえぎられると途端に肌寒さが増します。
こうなるとストーブの出番。
火があるのとないのでは、こうも違うものかとその有難みを感じながら、やや太めの薪を入れて野菜作りをした畝の後片付けに向かいます。
それにしても不思議ですね。
なぜかストーブの中で薪が燃える炎をじっと見ていると、気持ちがゆったりとしてきます。
もっとも同じ火でもガスではなかなかそうはいきません。
ヒトと他の動物の違いに火を使うというのがありますが、薪が燃え上がる炎に魅入られるのも人類の歴史と何か関係があるのでしょうか。

今の時期の楽しみは焼き芋。
ここ数年、降雪前に何回か焼き芋にできるだけのサツマイモを作っています。
収穫後、追熟し甘みが増してきたころを見計らい、アルミホイルに包んでストーブの中へ。
20~30分すると、実にこうばしい香りが漂ってきます。
葉が枯れ落ち真っ赤な実をつけた柿の木や遠くの茶系統に染まった山並みをながめ、フーフーいいながら頬張る熱々の焼き芋。
まさに秋そのものを味わっている気分です。
首都圏の友人にメールで写真を送ったら、「自分の畑で焼き芋なんて、夢のまた夢。なんて贅沢な」。
以前はほとんど口にしなかった焼き芋。
自分で栽培し、自分で焼くようになってから、この季節の訪れを待ちわびるようになりました。
年々短くなる秋。
温暖化がこれ以上進み消滅するなんてことになりませんように。 

(2024/1/29 辻蕎麦HP)

2024年 10月~11月号 辻蕎麦便り

ここ数年、異常気象が思いもよらないことを引き起こすことはわがささやかな菜園でもしばしばありました。
その多くは後で振り返ると、多分あれが、とおぼろげながらも原因にたどりつけました。
しかし、今回の出来事は皆目見当がつきません。
いまだに頭の中は「?」でいっぱいです。

ことしの柿はいつもの年より色づきが早く、月を越して間もなく日々緑色が薄まり赤身を帯びていきました。
わが菜園の柿の木は80年近い樹齢を数える平核無(ひらたねなし)の老木ですが、有難いことにそんなに頑張らなくてもいいよと労わりたいくらいたくさんの実をつけます。
柿は裏作、表作があり、しっかり剪定と摘果をして管理しないと収穫量は年ごとにかなりばらつきが生じます。
昨年も多かったが、ことしもやたら多いので、6月から7月にかけて懸命に摘果作業を行いました。
下のほうは一枝に1個から2個とセオリー通りですが、上の方は葉に覆われていたところを見落としたらしく、あちこちがブドウの房のようになっています。
全体で7、800個くらいはなっているでしょうか。

今月上旬、数日目を離したすきに珍事は起こりました。
徐々に緑色が薄まる仲間をしり目に、音速どころか光速のような猛スピードで熟成している実が10数個あったのです。
例年なら11月中旬ころからでないと目にしない真っ赤に色づき太陽の光を浴びると内側が透けて見えるような樹上完熟柿が生まれていました。
平核無は渋柿ですので、焼酎などによる渋抜きか干し柿にしなければ食べられません。
ところが10数個のうちの1個を鳥が啄んでいたのです。
それを見た柿好きの連れ合いが「鳥が食べるくらいだから、渋くないんじゃない」と止める暇もなくパクリ。
「中はトロトロで渋みは全くない。それに甘みもしっかりあり、収穫し残した樹上完熟柿より上品な味がする」
と満足げな笑顔で2個目に手を伸ばす。
こうなると黙ってみているわけにはいきません。
1個もぎ取り、2つに割って舌先でそっと舐めてびっくり。
雪をかぶる季節の樹上完熟でもどこか渋みが残っているものがありますが、全く感じられません。
渋抜きや干し柿、樹上完熟でこれまでどれほどこの柿を食べてきたか分かりませんが、最高の味のような気がします。

時がたてば彼らに引き続き後続部隊が当然のごとく現れるものと思い込んでいたのですが、完熟したのはその10数個だけ。
とはいえ、完熟しているものがあるということは全体に熟度が相当に進んでいるということか、と慌てて近くの柿をもぎ取り焼酎で渋抜きしてみましたが、残念ながら甘みのうすーい柿しかできませんでした。
この10数個だけが特別で、あとはごく普通の生育状態だったのですね。
10数個は南側のやや下の方の枝になっていたのですが、超スピード樹上完熟の原因のなんたるかはこの辺にあるのでしょうか。
もっとも素人には貴重な体験と味をプレゼントしてもらっただけでも十分です。

(2024/10/31 辻蕎麦HP