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2025年 5月~6月号 辻蕎麦便り

「ちょっと実の数が少ないような気がする」。
わが菜園近くの畑で熱心にサクランボの木を観察していた知人に声を掛けたら、こんな答えが返ってきました。
その数日後、県さくらんぼ作柄調査委員会が今シーズンの予想収穫量を発表しましたが、平年に比べて20%~28%少なくなりそうだとか。
昨年は極端な高温で痛めつけられ、今年は低温で結果数が少ないとは。
2年続けて大きな打撃を受けそうです。

実の数が少ない原因は開花期の天候不順。
サクランボの受粉は蜂の媒介によることが多いのですが、低温続きで活動が鈍かったようです。
蜂の行動が活発化するのは18℃以上で、20℃から25℃が最も盛んといわれています。
しかし開花期の4月中旬から5月上旬にかけて平均気温が15℃に満たない日が多く、18℃を超したのは今月中旬以降に数日あっただけ。
あれだけ暑かった昨年とはうって変った気候でした。
菜園での作業中も肌寒さを感じることが多く、例年に比べて蝶や蜂は少ないし、そのほかの虫たちもあまり目立ちません。
野菜の成長も遅いような気がします。

晴れ渡った月末の昼近く、車で郊外を走っているとフロントガラス越しに見事なほど全山をさらしている月山が見えました。
そして朝日連峰の白い輝きも。
青空とのコントラストが実に鮮やかです。
ふと東に目を向けると奥羽山脈の上にはボリュームたっぷりの積乱雲が連なっています。
えっ、もう夏。
そういえばことしも5月ならではの風景に会いに行けずじまいだった。
突然そんな思いが沸き上がってきました。

数年前からいずれはと考えていた5月ならではの風景、それは「雪紅葉」と「水没林」、そして「白いハンカチ」です。
西川町の県立自然博物園ネーチャーセンター周辺のブナの自然林。
芽吹き始めると、その芽を包んでいた赤い皮が残雪の上に散ってきます。
これが「雪紅葉」で、月山の春の風物詩です。
萌黄色に染まった木々を透かしてみる青空、足元には白の世界に赤の点々が果てしなく広がる様子は、想像しただけで爽快な気分になります。

飯豊町の白川湖では、雪解け水で水位が上がると、岸周辺のシロヤナギの幹の部分が水面下に沈みます。
周囲の残雪と共に湖面に映る新緑の葉をつけた枝が広がる「水没林」は一服の絵のようです。

「白いハンカチ」は山形市のやまがた森林と緑の推進機構の敷地にあります。
中国の高原が原産地のミズキ科の樹木ハンカチノキ。花
びらの下部に苞と呼ばれる特殊な葉が2枚ついています。
普通の葉よりはるかに大きく、しかも花と同じ白色なので、遠目にはまぎれもなくハンカチのように見えます。
国内では極めて希少なのだとか。

異常が常態化し、いずれ春夏秋冬は姿を消して夏と冬だけの「二季」になるのではないか。
こんな冗談が本気に思えてくるような気候が続いています。
「四季」が薄れてきているだけになおのこと、来年こそは「5月の風景」に会って「風薫る」を存分に味わいたいと思っております。

2025年 4月~5月号 辻蕎麦便り

「故郷や どちらを見ても 山笑う」正岡子規。
郊外を車で走りながら目の前に現れる山々を見ていると、まさに笑いかけてくるよう。
待ちに待った季節到来で妙にワクワクしてきます。
「山笑う」は俳句の季語として使われている言葉ですが、早春の山の草木が一斉に芽吹いて明るい感じになる光景を指しているそうです。
4月の山形周辺の山の姿を表現するにはぴったりで、よくぞこんな言葉を思いついたものだと古人の感性の豊かさに感心してしまいます。

山桜が白く染まるころから周囲の木々も淡く、本当に淡い色合いながら様々な表情を見せ始めます。
山肌を染めている色彩をきちんと見極めたら、恐らく数十種類にもなるのではないでしょうか。
そして萌黄色が山全体を包んだと思ったら、あっという間に緑が濃さを増していきます。
雪に閉ざされた冬の重苦しい雰囲気を一気に打ち払い明るく温暖な世界の訪れに、山と同様こちらも思わず笑みがこぼれます。

今月中旬、馬見ヶ崎川沿いに広がる満開の桜のトンネルを上流から楽しもうと、山形市東部の紅花奥の細道ロードを山寺方面から東沢に向かいました。
高瀬地区の村山高瀬川に近づくと、たくさんの鯉のぼりが河川の上で悠然と泳いでいるのが目に飛び込んできました。
見とれているうちにうっかり橋を渡って通り越しそうになり慌ててUターン。
橋のたもとの集落を抜けると河川そばに臨時の駐車場が設けられていました。

地区の有志が10数年前から川の上空にロープを張り、鯉のぼりを揚げているのだとか。
不要になった鯉のぼりが寄せられ、当初は4、50匹だったのが今では約350匹に。
雪解けで水しぶきをあげながら流れる川、そして青空と満開の桜並木をバックに泳ぐ色とりどりの鯉のぼりはまさに一枚の絵のよう。
その光景に懐かしい記憶がよみがえります。
多くの家で屋根より高い柱を庭先に建て、真鯉や緋鯉を揚げていました。
柱を建てるのは大変な力仕事で、大人3、4人が必要なほどでしたが、鯉のぼりが泳ぎ始めると気持ちが一気に膨らんだものです。
しかしいつのころからかそんな風景もほとんど目にすることはなくなりました。

風が弱まり泳いでいた鯉のぼりが垂れてきました。
尻尾には寄付者の地域と氏名が記されています。
そういえばあのころの鯉のぼりはその後、どうなったのでしょうか。
ひょっとしたらここで再び大空を泳いでいる鯉のぼりたちの仲間入りをしていたら嬉しいのですが。

桜の開花期はジャガイモの種芋の植え付け適期でもあります。
これを皮切りに、様々な野菜の播種や苗の定植が目白押し。
問題はこれからの気候がどうなるかです。
気象庁によりますと、赤道付近の海面水温が平年より高くなるエルニーニョ現象が終息したので、この夏は去年のような危険な暑さになる可能性は低いということです。
高温障害でいろいろな野菜や果樹が大きな被害を被った昨年の夏。
この予想が的中して作物が順調に育ち、物価高の中で消費者が野菜高騰に悩むことがないよう願っています。

(2025/04/30 辻蕎麦HPより)