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2025年 6月~7月号 辻蕎麦便り

今年はトマトの苗の購入をやめよう。
4月末にホームセンターの野菜苗売り場をながめていて、ふとそんな思いが浮かんできました。
ここ数年、野菜の種や苗、肥料などが急騰していることもありますが、それより自然にゆだねた野菜作りをするとどうなるのか、ハウスで加温して育てた苗と何かが違うのではないか、そこに興味がわいたのです。

前年にトマトを植えた畝周辺から翌春に発芽してくることがよくあります。
熟したトマトが落下して、その種から芽が出るのですが、翌年、他の野菜を植えると、これは邪魔者でしかありません。
せっかく出てくるのだから活用しなければ。
植物が発芽するには一定の気温が必要です。
さまざまな高温障害を引き起こした昨年の5月と打って変わって、今年は比較的低温で推移しました。
その分発芽も遅かったのか、6月になっても影も姿もありません。
無謀な試みだったか、と不安がよぎり始めたころにようやく待望の芽を確認。
苗がほどよいサイズに達したものから順次、ことしのトマトの畝に移植しましたが、全部で20本ほどありました。
ただどの苗がミニなのか、中玉なのか、大玉なのか皆目見当がつきません。
まさかすべてが同じ種類ということはないと思うのですが、それは実をつけてみてのお楽しみということでしょう。

ホームセンターで求めた苗に比べると、生育状況は2カ月近い遅れ。
周辺の畑のトマトは実がかなり大きくなっていますが、こちらはようやく花をつけ始めたばかりです。
当然のことながら「旬」も違ってくるのかも。
「旬」。
あらためて説明するまでもありませんが、野菜や果物、魚介類がもっとも味の良い時期のこと。
文字そのものは10日間を表す意味だそうですから、わずか10日間くらいが最高の味わいを発揮するということなんでしょうね。
気温の乱高下が激しい異常気象の中、自然にゆだねているトマトの「旬」はどうなるのか。
真っ赤に熟れるのを今から楽しみにしています。

びっくりというより信じられない出来事が。
26日朝、東根市の山形空港にクマ1頭が侵入。
飛行機10便が欠航したというのです。
空港はかなり高いフェンスやコンクリート塀で囲まれているうえに、すぐそばに国道13号と山形新幹線が走行する奥羽本線があります。
奥羽本線はともかく、国道13号は夜間でも大型トラックが行き交う交通量の多い幹線道路です。
しかもその東側は数キロにわたる市街地で、人目に触れず山からどうやって空港までたどりつき、中に侵入したのでしょうか。
関係者は捕獲に追われていますが、月末になっても捕らえたニュースは流れてきません。
周辺にはサクランボをはじめ果樹畑も多く、万が一にも人的被害が発生するようなことがなければ良いんですが。

(2025/06/30 辻蕎麦HP)

2025年 5月~6月号 辻蕎麦便り

「ちょっと実の数が少ないような気がする」。
わが菜園近くの畑で熱心にサクランボの木を観察していた知人に声を掛けたら、こんな答えが返ってきました。
その数日後、県さくらんぼ作柄調査委員会が今シーズンの予想収穫量を発表しましたが、平年に比べて20%~28%少なくなりそうだとか。
昨年は極端な高温で痛めつけられ、今年は低温で結果数が少ないとは。
2年続けて大きな打撃を受けそうです。

実の数が少ない原因は開花期の天候不順。
サクランボの受粉は蜂の媒介によることが多いのですが、低温続きで活動が鈍かったようです。
蜂の行動が活発化するのは18℃以上で、20℃から25℃が最も盛んといわれています。
しかし開花期の4月中旬から5月上旬にかけて平均気温が15℃に満たない日が多く、18℃を超したのは今月中旬以降に数日あっただけ。
あれだけ暑かった昨年とはうって変った気候でした。
菜園での作業中も肌寒さを感じることが多く、例年に比べて蝶や蜂は少ないし、そのほかの虫たちもあまり目立ちません。
野菜の成長も遅いような気がします。

晴れ渡った月末の昼近く、車で郊外を走っているとフロントガラス越しに見事なほど全山をさらしている月山が見えました。
そして朝日連峰の白い輝きも。
青空とのコントラストが実に鮮やかです。
ふと東に目を向けると奥羽山脈の上にはボリュームたっぷりの積乱雲が連なっています。
えっ、もう夏。
そういえばことしも5月ならではの風景に会いに行けずじまいだった。
突然そんな思いが沸き上がってきました。

数年前からいずれはと考えていた5月ならではの風景、それは「雪紅葉」と「水没林」、そして「白いハンカチ」です。
西川町の県立自然博物園ネーチャーセンター周辺のブナの自然林。
芽吹き始めると、その芽を包んでいた赤い皮が残雪の上に散ってきます。
これが「雪紅葉」で、月山の春の風物詩です。
萌黄色に染まった木々を透かしてみる青空、足元には白の世界に赤の点々が果てしなく広がる様子は、想像しただけで爽快な気分になります。

飯豊町の白川湖では、雪解け水で水位が上がると、岸周辺のシロヤナギの幹の部分が水面下に沈みます。
周囲の残雪と共に湖面に映る新緑の葉をつけた枝が広がる「水没林」は一服の絵のようです。

「白いハンカチ」は山形市のやまがた森林と緑の推進機構の敷地にあります。
中国の高原が原産地のミズキ科の樹木ハンカチノキ。花
びらの下部に苞と呼ばれる特殊な葉が2枚ついています。
普通の葉よりはるかに大きく、しかも花と同じ白色なので、遠目にはまぎれもなくハンカチのように見えます。
国内では極めて希少なのだとか。

異常が常態化し、いずれ春夏秋冬は姿を消して夏と冬だけの「二季」になるのではないか。
こんな冗談が本気に思えてくるような気候が続いています。
「四季」が薄れてきているだけになおのこと、来年こそは「5月の風景」に会って「風薫る」を存分に味わいたいと思っております。