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2018年2月~3月 辻蕎麦便り

如月。

やたら政治色が濃く、スポーツ大会としてはいかがなものかと首をかしげていた平昌五輪。
終わってみれば、そんな懸念を吹き飛ばすほど盛り上がりをみせた大会でした。
日本勢は冬季五輪史上最多の13個のメダルを獲得。
それだけでも大いに沸いたのですが、トップアスリートたちの素晴らしい人間性を垣間見、感動するシーンが多かったのではないでしょうか。
互いが研鑽してきた技量を精一杯発揮するとともに、ライバルにも同じような環境でプレーできるようにしてあげる。
これまでの大会でもあったのでしょうが、今回は特に強く感じられたような気がします。
スピードスケート500㍍で五輪新を記録した小平奈緒選手。
自分の滑走後に人差し指を口元に当て、場内いっぱいに湧きおこる歓声を次の選手たちのために静めてほしいと訴える。
スキー複合であえて風よけになるために先頭に立った渡部暁斗選手など。
凡人は、相手のミスを願ってでも勝ちたいと思いがちですが、恥ずかしい限りなんですね。
いかに公平な状況で各々が最大限の力を発揮するか。
勝ち負けはその結果に過ぎない、というトップアスリートの精神には感動させられました。

 五輪閉幕とともに、雪国山形でも春の兆しを感じられるようになってきました。
そうはいっても、周囲を見渡せば依然として白一色の世界ではあります。
今冬は福井、石川など北陸の降雪量がニュースになりましたが、気象庁のデータなどを見ていると本当に多かったのは新潟県北部から山形県にかけてだったようです。

 山形県大蔵村肘折温泉。
青森県青森市の酸ヶ湯と並ぶ豪雪地帯です。
ここで今月13日の積雪が4㍍45㌢に達し、過去最高だった4㍍15㌢を大幅に上回りました。
肘折温泉には20軒ほどの旅館がありますが、そのうちの17軒で最大積雪量の記録が更新されたら翌日の宿泊費は無料にするイベントを企画していました。
それが現実になったのです。
4㍍を超える雪をものともせずに、お客さんたちが県外からも詰めかけたそうです。

 雪国に住んでいるわれわれも4㍍を超す雪というのはあまりピンときません。
数年前、積雪3㍍くらいの時に肘折温泉に“雪見”に行ったことがあります。
豪雪地帯というのは意外なほど道路がきれいに除雪されているものです。
その時もアスファルトが見えるような状態になっていました。
もっとも道路の両側はものすごい高さの雪の壁です。
壁の中間くらいの高さにカーブミラーがささやかに顔を出していたりするのです。
空も道路の幅分しか見えません。
なかなか想像できないかもしれませんが、どんな状態か思いを巡らせてください。

 今月も残りわずか。
太陽の光がぐっと強まってきたように感じられます。
あと2週間もすれば、地面から白い色が急速に消え、ぽつぽつと緑色が目に入ってくるはずです。
厳しい寒さと豪雪から解放される季節の到来に心を弾ませながら、美味しいお蕎麦をお届けするために精一杯頑張ります。

2017年10月~11月 辻蕎麦便り

神無月。
「錦秋の候」という言葉がぴったりの季節ですが、今年に限って言えば、それはどこの世界の話といった感じです。
「秋晴れ」とか「秋天」などと表現できる爽やかな天候はいったい何日あっただろうか。
朝に晴れていても、昼過ぎには厚い雲が覆ったり、ややもするとぽつりぽつりと歓迎しないものが落ちてきたりと、とにかく1日中澄み切った青空という記憶がほとんどありません。
もっともこれは山形だけのことではないようですが、さすがに鬱陶しくなってきます。

 自然の中にも“異変”が。
ささやかな菜園でキャベツなどを育てていますが、昨年までは追っても追っても飛び交う蝶に悩まされてきました。
なんせ葉の裏に産み付けられた卵が青虫になり、ようやく大きくなりかけている葉を次から次と食い荒らすのですから。
菜園を手掛ける前までは、「おっ、蝶が舞っている」などと優雅な光景に映ったのですが、いまや憎っくき仇でしかありません。
その憎っくき仇の姿がこの秋はほとんど見かけないのです。
本当は嬉しいはずなのですが、あまりに少ないと何か異変が起きているのではないかと心配になるほどです。
どうなっているんでしょうね。

 窓越しに冷たい雨がそぼ降るのを眺めていて、「えっ、何これ」と一瞬わが目を疑いました。
4月末に園芸店でグリーンカーテンに最適という謳い文句に惹かれ、うかつにも栽培知識ゼロながらパッションフルーツの苗2本を購入。
大型のプランターに肥料をどっさりやって植え、2階の窓との間にネットを渡しました。

 その後、これは熱帯だか亜熱帯の植物で、果たして雪国山形で育つのか。
ハウスなどもないし冬はどうするの。
しかも簡単に受粉しないし、受粉しても熟して食べられるようになるのは容易でないことも分かりました。
どうしてこんなものに手を出したのかと後悔しましたが、いろいろ考えても仕方がない。
最後は、グリーンカーテンをひと夏楽しめばいいではないかと割り切りました。
やはり花は咲けども受粉せず。
それでも2階まで葉を繁らせグリーンカーテンとしては立派に役目を果たしてくれました。
秋になり気温が下がり始めたころに再び花が咲き始め、ある日、蔓の途中に直径5㌢ほどの艶やかな緑の球形が下がっているのが目に入りました。
その1個が1カ月ほどぶら下がったままだったのが、なんと最低気温がひとケタになった今月中旬に2個目が誕生していたのです。
熱い地方の果物が気温ひとケタの中で実っているというのが全くピンときません。
そろそろ蔓を切り詰め、小さな鉢に植え替えて家の中に入れなければと思っていたのに。
しかし冷たい雨の中で揺れる小さな緑の球形を目にするといじらしくなり、なかなか蔓をばっさりという気になれません。
日一日と気温は下がっているのですが。

 今年も新蕎麦本番の季節を迎えました。
辻蕎麦の工房には、蕎麦粉をかき混ぜるときの馥郁たる香りが漂っています。
お客様には申し訳ありませんが蕎麦の香りだけは、打ち手は鼻で、お客さんは噛みしめた後に口腔から感じていただくしかありません。
それぞれの蕎麦粉の良さを最大限引き出すよう懸命に努めておりますので、存分に味と香りをお楽しみください。