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2018年11月~12月 辻蕎麦便り

霜月。

「150年ぶりの一般公開」。
この言葉だけでなにやらすごいのではないかと思い、今月上旬、紅葉見物がてら羽黒山の国宝五重塔に行ってきました。
なんせ生きているうちに拝観できる最初で最後のチャンスかも知れませんし。

山形県の中央に連なる出羽三山。
月山、羽黒山、湯殿山は古くから山岳修験の場として、全国にその名を知られています。
江戸時代には関東などから白装束をまとった信者が列をなし、山頂を目指す様子は一本の白い糸のようだったといわれています。

五重塔で東北唯一の国宝は羽黒山中に樹齢350年から600年の杉並木とともに静かにたたずんでいます。
高さは29.4㍍。
三間五層の素木造りで、屋根は杮葺き。
建立された時期は明確でなく、慶長13年(1608年)に山形城主最上義光によって大修復が行われましたが、その時の棟札に「承平年中(931年~938年)平将門」と書いてあったといいます。
ただ現在の五重塔は建築様式を見る限り約600年前の室町時代のものではないかということです。

この五重塔は明治初年の神仏分離令が発せられて以降、「秘中の秘」とされ内部が人々の目に触れることはありませんでした。
ことし出羽三山神社(月山、羽黒山、湯殿山の各神社)の三神合祭殿再建200年を記念し4月末から今月4日まで一般公開されたのです。

参道入り口近くの駐車場に入ってびっくり。
50台以上停まっている車のナンバーが大阪、名古屋、富山、品川、仙台など県外、しかも遠隔地のものがやたら目立ちます。
なんと「山形ナンバー」はわが家の1台だけ。
一般公開への関心の高さは全国区だったのですね。
地元にいながら気付いたのは10月下旬でした。
「う~ん、灯台下暗し」。

五重塔前の臨時受付で入場料を払ったら山伏がお祓いをしてくれました。
1階から5階まで階段を昇って行くことができるのかと思ったら、全く違っていました。
入れるのは1階だけで、2階以上は吹き抜け状態になっているのです。
大修復でどの程度部材を差し替えたか分かりませんが、内部は600年の時を刻んだとは感じられないほど痛みが少ないのです。
それは塔の脇に設けられた仮設のスペースに寝転がって2階の窓から半身を中に入れ、上をのぞいた時も同じでした。
八角形の芯柱はちょうな削りの跡が生々しく、数年前に加工したといわれても信じてしまうほどの肌をしております。
案内の女性によれば、塔の内部は風通しが良く、しかも光がほとんど差し込まないので木材の劣化が極めて少ないのだとか。
また木材と木材の結束材は藤つるを使っておりますが、乾けば乾くほど締まるということです。
それだけきつく縛ることになります。
奈良や京都の寺社仏閣でもそうですが、随所に光る先人の知恵と工夫には本当に頭が下がります。

再び扉を閉ざした五重塔。
今ごろ周囲は白い世界に覆われていることでしょう。

いよいよ師走。
辻蕎麦の工房では年越し蕎麦づくりに追われる日々が続きます。
新たな年に向かい期待と希望を込めてお召し上がりになるお客様のご要望におこたえすべく
精魂込めて打ち上げます。

2018年10月~11月 辻蕎麦便り

神無月。

「○○と秋の空」ということわざがありますが、「○○」のほうはともかく、「秋の空」は本当に変化が激しいですね。
「おっ、きょうの青空は気持ちがいい。農作業に勤しむには絶好の日和だ」などと思って朝食を食べていると、次第にうす雲が広がり、いつの間にか太陽もどこかにいったりして。
たまには爽やかな気分とやる気を一日中保たせてくれよ、と叫びたくなってしまいます。
もっともこの時季、山形や天童周辺だけでなく、全国どこも同じなのでしょうが。

それにしても今年は台風が多かったですね。
しかもイレギュラーなコースをたどるものまで。
西日本の人たちには申し訳ないのですが、山形県の内陸部は台風被害とのかかわりがかなり少ない地域です。
大方の台風がいつもより少々強い風が吹いているといった感じで過ぎ去ってしまいます。
そんなところに暮らしていると、鎌倉に住む知人から届いた便りは衝撃的な驚きでしかありませんでした。
台風24号がもたらした塩害で、周辺の山々の樹木や草花までが大きな打撃をこうむり、葉は一様に委縮してしまっている。
この秋は、枯葉だらけで紅葉を愛でることなど夢のまた夢になりそう、ということでした。

山形はいまが紅葉の盛り。
田舎人が恵まれているのは、わざわざ紅葉の名所などに出掛けなくても、近所どころかわが家の庭でも十分に紅葉狩りを楽しめることです。
束の間の青空から差し込む太陽の光に透かして見るモミジやカエデなどの鮮やかな赤は例えようがないほどに美しい。
大自然が造り出す偉大な色合いに思わず意識が吸い込まれそうになります。
人工の色ではなかなかこうはいきません。
こんな時は気温が一気に下がるほど色鮮やかになる北国の良さに感謝、感謝です。

つい先日まで稲穂が風に揺れ、黄金のうねりをみせていた田んぼの光景も一変。
刈り取られた後の稲株が縦横に果てしなく広がり、アート的ですらあります。
春先から天候不順が続きましたが、作柄は悪くなかったようで、美味しい新米が次々に出荷されています。

当然のことながら新蕎麦も本番の季節を迎えました。
昨年も紹介しましたが工房では、蕎麦粉をかき混ぜるときの馥郁たる香りに包まれながら、作業に励んでおります。
われわれには季節の変わり目を最も肌で感じられる時季です。
それぞれの蕎麦粉が持つ特長を最大限引き出し、美味しいお蕎麦をお届けできるよう懸命に努めておりますので、存分に味と香りをお楽しみください。