長月。
山形では、黄金色に染まった田んぼで一斉に稲刈りが始まりました。
それを見ていると実に不思議な感じがします。
口を開けば「暑い、暑い」とぼやきながら作物の高温障害を懸念し、あまりの少雨に干ばつにならなければと憂いていたのがほんの1か月前だったのです。
それがいまや朝晩は肌寒ささえ覚えるほどに。
わたってくる秋風に揺れる穂波は、そんな過酷な環境にさらされていたことなどを少しも感じさせず、豊かな実りを表しています。
自然は、人の目の届かないところできちんと辻褄を合わせているんでしょうね。
この時期になると、どこからともなく「おおきな くりの きのしたで …♪」という童謡の一節が聞こえてくるような気がします。
ある情景を伴って。
それが山形県西川町大井沢にある日本一大きな栗の木なのです。
樹齢約800年で、樹高は約17㍍、地上1.5㍍の目通りの幹回りは8.5㍍もあります。
地上4㍍ほどのところで5本の幹に分れています。
山形県指定の天然記念物になっています。
栗の木は一般的に樹齢を重ねると病害虫に弱くなり、これだけの太さの木が残っているのは極めて珍しいということです。
上に数字を並べましたが、実際目の当たりにすると、数字を遥かに超える迫力があります。
よく老木には精霊が宿るといわれますが、まさに「そうだよね」と素直にうなずいてしまう雰囲気を醸し出しています。
もう10年近く前になりますが、たまたまその存在を知り、日本一の栗の実はどんな味がするのかと野次馬根性丸出しで出掛けました。
各種ブログなどを拝見すると、現在はかなりアクセスが整備されているようですが、当時は案内標識などもほとんど見当たりませんでした。
狭い林道を迷いながら突き進み、駐車場らしき空き地に車を停め、10分ほど歩いてようやくたどり着いて目にした光景は圧巻でした。
言葉もなくしばし見入ってしまったほどです。
拾った栗はやや小粒なシバグリで茹でていただきましたが、結構甘みが強く予想以上に美味しかったのを覚えております。
これに味をしめ、翌年、再び訪れたところ、時期が遅れたのか全く栗を見つけることができませんでした。
日本一の栗の木に御対面しただけでもいいかと、我が身を慰めて林道を下山中、突然3頭の親子熊が藪から現れ車の4、5㍍先を横切って行きました。
助手席にいた連れ合いに写真を撮ってと声を掛けましたが、野生の熊と遭遇したショックで完全に固まっていました。
恐らく目は点になっていたのではないでしょうか。
当然のことながら、日本一の栗の木の栗拾いはたった1回で終わってしまいました。
田んぼでは黄金の波が揺れていますが、畑では真っ白な蕎麦の花が大海原の様相を呈しています。
新蕎麦の香りが立ち込めるのも間もなくのようです。