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2019年2月~3月 辻蕎麦便り

如月。

昨年末から年初にかけて、このままではどれくらい雪が積もるのか、と恨めし気に空を見上げていたものです。
積雪があっという間に50㌢を超えたのですから。
それが今月に入り、これが2月?といった日々が続いています。
積もっていた雪は見る見る融け、21日にはゼロに。
今冬の北日本の気温は平年並みという長期予報が出ていましたが、西日本並みに暖冬だったんですね。
振り返ると除雪作業は3、4回しかやっていません。
年によっては毎日のように必要なのに。
ようやく雪が融けたばかりなのに、気の早いチューリップが庭の土を「邪魔っ、どけっ」とばかりに勢い良く頭を出してきています。
寒さの揺り戻しでおかしくならなければいいのだが、と心配しています。

里はこんな様子ですが、山懐に抱かれた地域はまだまだ冬の真っ盛り。
雪を活用した祭りがいろいろ企画されています。

山形県の中央にそびえる霊峰月山へ至る中腹の西川町志津温泉。
ここでは13年前から雪とローソクで幽玄の世界をつくり出しています。
「月山志津地区は四百年以上前から三山行者の宿場町であり、冬場の6mにも及ぶ雪という資源を利用して、この地域でしかできないオンリーワンのイベントを開催したいという想いから、雪で旅籠の街並みを再現することになりました。
一軒の旅籠作りから始まり、現在では趣のある旅籠が立ち並ぶ当時の宿場町を、期間限定で楽しんでいただけるようになりました」
(月山志津温泉 雪旅籠の灯り実行委員会のあいさつ文)
地域の人々と山形市の東北芸術工科大学の学生たちが協力し、古い写真を参考にしながら道路沿いに約150㍍にわたって様々な旅籠を再現しています。
冬晴れに誘われて一夕、ちょっと足を運んでみました。
長屋風の建物に無数の小窓が設けられ、窓ごとに透明容器に入ったローソクが灯されています。
雪の白さとかすかにゆらめく淡い炎の織り成す空間は実に幻想的です。
道路に雪が無く車の運転が楽で良かったなどと思って辿り着いたことをすっかり忘れ、粉雪が舞っていたらもっと素敵だろうなと想像したりして。
いつの間にか寒さをすっかり忘れていました。

同じ月山の麓にある大蔵村の肘折温泉。
毎年3月中旬に「世界一の大雪だるま」が登場します。
もっとも雪玉を転がしながら大きくしていくなどという生易しいものではありません。
年によっては積雪4㍍を超すわが国有数の豪雪地帯。
重機を使って会場周辺の雪をかき集め、想像を絶するでっかい雪だるまを造るのです。
ことしで25回目ですが、過去最大は1回目の高さ29.43㍍の作品。
地上8、9階建のビルに相当する巨大さ。
ギネスブックにも登録されており、文字通り「世界一」なのです。
ことしは3月16日に行われますが、果たしてどの程度の大きさになるのか。
ぜひこの目で確かめたいと楽しみにしています。

今月も残りわずか。
太陽の光がぐっと強まってきました。
芽生えの季節の到来に心を弾ませながら、美味しいお蕎麦をお届けするために精一杯頑張ります。

2019年02月26日 

2019年1月~2月 辻蕎麦便り

睦月。

明けましておめでとうございます。

気象庁の今冬の長期予報では、全国的に暖冬だが、北日本は平年並みということでした。
いつもの寒い冬を覚悟していましたが、意外にも山形市や天童市などはやや暖冬の傾向にあるようです。

最高気温もマイナスになる日を真冬日といいます。
1日中、冷凍庫内にいるような感じですね。
昨年は12月末から1月にかけて8日間もありました。
こうした中で雪が降ると、降った分だけ積もってしまい、簡単に融けません。
足腰の痛みに耐えながら除排雪作業に汗を流す日々が続くことになります。
ところが今年は12月末も含めて真冬日が3日間だけ。
降っては解けるの繰り返しで、積もってもそれほどの高さになりません。
間もなく立春。
晴れ間から射す日の光もピーンと張りつめたような感じから、徐々に柔らかいものに変わってきているようです。

冬の山形の名物といえばその筆頭は蔵王の「樹氷」でしょう。
地蔵岳山頂付近の斜面に広がるアオモリトドマツ。
シベリアからの季節風が日本海から上昇する水蒸気で大量の雪雲をつくりだし、朝日連峰を超え、蔵王の山並みにやってきます。
雪雲の中の雲の粒がアオモリトドマツの枝や葉に付着して凍り、それらが次第に肥大し、さらに雪そのものもがっちり張り付き、巨大な白いモンスターに成長します。
1月末から2月にかけてが、最も大きく育つ時期。
国内外の多くの観光客でにぎわいます。
真っ青な空をバックにそそり立つ姿をながめていると、地球とは違う惑星に来たような気持ちにさえなってきます。

ところがそんなモンスターが危機に瀕しております。
キクイムシや蛾の幼虫などによるアオモリトドマツへの食害が4、5年前から深刻化し、次々に立ち枯れ状態になっているのです。
現場は自然公園法の特別保護区で、伐採や植林などができません。
極めて大きな観光資源だけに関係者は懸念を募らせてきました。
東北森林管理局もこのまま手をこまねいてはおられないと対策を検討。
同じ特別保護区の標高の低いところに自生する幼木を高い場所に移すのは可能ということで、雪解けを待って作業を始めるようです。
標高1500㍍を超すようなところでの植え替えだけにいろいろな困難がつきまとうのは必至でしょう。
しかし冬の山形を代表する「樹氷」だけに、その姿を消すことがないよう成功を願ってやみません。

辻蕎麦の作り手一同、より美味しい蕎麦をお届けしようと気持ちを新たにしております。
今年も宜しくお願い申し上げます。