「故郷や どちらを見ても 山笑う」正岡子規。
郊外を車で走りながら目の前に現れる山々を見ていると、まさに笑いかけてくるよう。
待ちに待った季節到来で妙にワクワクしてきます。
「山笑う」は俳句の季語として使われている言葉ですが、早春の山の草木が一斉に芽吹いて明るい感じになる光景を指しているそうです。
4月の山形周辺の山の姿を表現するにはぴったりで、よくぞこんな言葉を思いついたものだと古人の感性の豊かさに感心してしまいます。
山桜が白く染まるころから周囲の木々も淡く、本当に淡い色合いながら様々な表情を見せ始めます。
山肌を染めている色彩をきちんと見極めたら、恐らく数十種類にもなるのではないでしょうか。
そして萌黄色が山全体を包んだと思ったら、あっという間に緑が濃さを増していきます。
雪に閉ざされた冬の重苦しい雰囲気を一気に打ち払い明るく温暖な世界の訪れに、山と同様こちらも思わず笑みがこぼれます。
今月中旬、馬見ヶ崎川沿いに広がる満開の桜のトンネルを上流から楽しもうと、山形市東部の紅花奥の細道ロードを山寺方面から東沢に向かいました。
高瀬地区の村山高瀬川に近づくと、たくさんの鯉のぼりが河川の上で悠然と泳いでいるのが目に飛び込んできました。
見とれているうちにうっかり橋を渡って通り越しそうになり慌ててUターン。
橋のたもとの集落を抜けると河川そばに臨時の駐車場が設けられていました。
地区の有志が10数年前から川の上空にロープを張り、鯉のぼりを揚げているのだとか。
不要になった鯉のぼりが寄せられ、当初は4、50匹だったのが今では約350匹に。
雪解けで水しぶきをあげながら流れる川、そして青空と満開の桜並木をバックに泳ぐ色とりどりの鯉のぼりはまさに一枚の絵のよう。
その光景に懐かしい記憶がよみがえります。
多くの家で屋根より高い柱を庭先に建て、真鯉や緋鯉を揚げていました。
柱を建てるのは大変な力仕事で、大人3、4人が必要なほどでしたが、鯉のぼりが泳ぎ始めると気持ちが一気に膨らんだものです。
しかしいつのころからかそんな風景もほとんど目にすることはなくなりました。
風が弱まり泳いでいた鯉のぼりが垂れてきました。
尻尾には寄付者の地域と氏名が記されています。
そういえばあのころの鯉のぼりはその後、どうなったのでしょうか。
ひょっとしたらここで再び大空を泳いでいる鯉のぼりたちの仲間入りをしていたら嬉しいのですが。
桜の開花期はジャガイモの種芋の植え付け適期でもあります。
これを皮切りに、様々な野菜の播種や苗の定植が目白押し。
問題はこれからの気候がどうなるかです。
気象庁によりますと、赤道付近の海面水温が平年より高くなるエルニーニョ現象が終息したので、この夏は去年のような危険な暑さになる可能性は低いということです。
高温障害でいろいろな野菜や果樹が大きな被害を被った昨年の夏。
この予想が的中して作物が順調に育ち、物価高の中で消費者が野菜高騰に悩むことがないよう願っています。
(2025/04/30 辻蕎麦HPより)