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2021年3月・4月 辻蕎麦便り

根から滑り落ちた雪が軒下に積み重なり、その上にまた屋根から雪崩れてくる。
大人の背丈を超えるほどうず高く積み上がった雪の山。
これほどの量はいつ消えるのだろうかと呆然としたものです。
それも束の間、3月に入った途端に急ピッチで山が低くなりました。

中旬には、あれほどあったのがどこに行ったのと訝しく感じるほど少なくなり、そして待ち焦がれた土が姿を現しました。
田んぼも切り株が見えたと思う間もなく、白一色から茶色の世界が急速に広がります。
白と茶色のまだら模様の中で、なにやらうごめく白い塊が。
天童市の北隣の東根市の道路を車で走行中、前方の田んぼで雪が動いているのではないかと錯覚し、思わず停車してしまいました。
目を凝らしてみると、白鳥の群れです。
大群といってもオーバーでないほどの数が見渡す限りの田んぼでエサをついばんでいるのです。
500羽は軽く超しているようです。

毎年、この周辺で白鳥の姿を見かけますが、こんなに多くの群れは初めてです。
今冬の豪雪と何か関係があるのでしょうか。
白鳥たちは、田んぼの雪融けとともに、より北側の田んぼに移動していきます。
北帰行を前に、いかにたくさん食べて体力を蓄えるか。
われわれの目には優雅についばんでいるように見えますが、彼らにとってはシベリアまでの大移動に備え生死をかけた作業なのでしょう。
一般道から農道に入り、群れの直前まで車を進めても、何ら気に留めることなく嘴を動かしています。
それほど必死なのでしょうね。
無事に日本海を渡ってほしいものです。

ことしは例年になく桜の開花が早いようで、今月20日過ぎには太平洋側の花見の映像が流れるようになりました。
雪国にもようやく遅い春が訪れ、山形市のお城址の霞城公園内の梅も咲き始めました。
紅梅が先行しており、白梅の本格的な開花はこれからのようです。
それでも待ちわびた市民が次々に訪れ、花芯に顔を近づけてかぐわしい香りに目を細めていました。

公園内には約1500本の桜がありますが、当然のことながらまだ硬い蕾のまま。
このうち1400本余りが樹齢100年を超えるソメイヨシノです。
青空の下、蔵王の白い山並みをバックに咲き誇る光景も素敵ですが、城跡のお堀を埋め尽くす花筏は息をのむ美しさがあります。
かすかな風で次々に姿、形を変えていく様はいくらながめていても飽きることがありません。

新型コロナウイルスの感染拡大で、のんびり花見もままならない状況に。
こんな日々がいつまで続くんでしょうね。
1日も早く以前の日常生活に戻れるよう願わずにいられません。
(2021/03/29)

2020年2月~3月 辻蕎麦便り

如月。

「えっ、何これ」。
時折り訪れるJR山形駅近くの霞城公園。
全国で5番目の広さを誇った山形城の跡地です。
今は二の丸までしかありませんが、それでもお堀には満々の水をたたえ、江戸城門に匹敵するスケールともいわれる大手門など往時をしのぶには十分な風格を備えています。

 その満々のお堀の水が徐々に目減りし、2月に入ってとうとう底が見えるようになりました。
間もなく乾ききるのではないかと思わせるほどになっています。
特定外来種の駆除で環境庁も注目しているテレビ番組「緊急SOS 池の水ぜんぶ抜く大作戦」に参加したわけではありません。
自然に水が無くなっていったのです。
一体どうしたんだろうといぶかっていたら、地元の新聞が取り上げその理由が分かりました。

 お堀の水は管理している山形市が地下水を汲み上げて一定の水位を維持しています。
しかし冬期間は汲み上げるポンプが凍てついて破損する恐れがあるので、毎年休止しているということです。
もっともこの時期は、お堀の周囲は雪で埋め尽くされて自然に“給水”されるし、零下の気温が続けば水面に氷がはって水が蒸発することもなくなります。
ところが今年は全国的な暖冬。
山形も例外ではなく、真冬日はなんと2月6日の1日だけ。
雪は夜半から明け方にかけて降ったものが昼過ぎには消えてしまうということが数回あっただけです。
まさかこの雪国で家の周辺の除排雪をひと冬に1回もしないで済むなど考えもしませんでした。
これでは氷がはるどころではありません。

 お堀の水は春になったら元に戻るようです。
普段はほとんど目にすることのない城の石垣の最下部の様子を見ることができます。
基礎の部分のぐり石が石垣だけなく土手の下にもしっかり施されており、これは意外でした。
休日などは多くの市民が大手門前の橋のうえから興味深そうに観察しています。
歴代城主をはじめ先人たちもさぞびっくりしていることでしょう。

 今シーズンは全国どこでも暖冬異変があるのでしょうが、わがささやかな菜園でも。
今月20日過ぎにまだ冬の気配を残す菜園を眺めていたら、大人の小指の先ほどのかわいらしいフキノトウが2個並んで頭を出していました。
2月のフキノトウなんて全く念頭になかったので目の錯覚かと疑ったほどです。
例年なら雪の下か、ようやく雪が解けて土が顔を出したばかりの時季ですよ。

 こんなことが来年以降も続くのでしょうか。
雪に悩まされないのは実に嬉しいのですが、一方では、果たしてこれでいいのかなという感覚も頭をもたげてきます。

(2020年2月27日)