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2016年4月 辻蕎麦便り

卯月。

桜前線北上中。
昨年の書き出しと同じで、いささか気が引けますが、この季節はやはりこの言葉が浮かんできます。
便りが届くころは首都圏では花吹雪から葉桜へ、北国では蕾が大きく膨らみ、陽当りの良いところから一輪、また一輪と花びらをひろげていることでしょう。

桜といえば、やはりソメイヨシノでしょうか。
青空に映える淡いピンクの豊かな花房は妖艶ささえ感じさせます。
雪国に住むわれわれにとっては、まさに待ちに待った春到来の景色です。
交配種であるソメイヨシノの寿命は約80年。
人間とほぼ同じということです。
ひょっとしたら、そうしたこともより魅入られる要因なのかもしれません。
山形県には、ソメイヨシノの寿命をはるかに超える樹齢約1200年という古木が2本あります。
県南部の長井市にあり、いずれもエドヒガンザクラで国指定の天然記念物になっています。
長井市のホームページによりますと、伊佐沢の久保桜は樹高13㍍、江戸時代には枝の広がりが4反(3968平方㍍)もあったため四反桜(よんたんざくら)と呼ばれていました。
もう1本は草岡の大明神桜。
樹高14㍍、東西の枝張27㍍もあり、個人宅に植えられた桜としては国内最大級の大きさを誇っているということです。
2本とも見る人々を圧倒する迫力がありました。
夕暮れどきなどにじっと見ていると、思わず引き込まれてしまうような感覚に陥ることさえありました。
まさに精霊が宿る樹です。
残念ながら10年ほど前から樹勢が衰え、風雪をくぐり抜けてきた以前のような凛とした力強さが急速に失われてきています。
あわれさえ覚えるほどで、寂しいかぎりです。
専門家の助言を受け、樹勢回復処置を計画的に行っており、徐々に効果がでているとのことですが、早く往年の姿を取り戻してほしいと願ってやみません。
長井市周辺には樹齢数百年という古木が多く、置賜さくら回廊という観光コースを組んでおります。
4月中旬から下旬が見ごろ。
お出かけになってみてはいかがでしょうか。

友に誘われ10数年ぶりにマニラに行ってきました。
気温が連日35、36°の南国。
ラーメン店はやたら多いが、蕎麦屋は見たことがない、と現地の知人。
ところがひょんなことから蕎麦屋が目に飛び込んできたのです。
屋号は首都圏の駅近くでよく見かける立ち食いそばの名前。
店内は立ち食いでなく、普通の小奇麗な蕎麦屋さん。
肝心のお味は。
盛りとかけをいただきましたが、国内と遜色なし。
いや空腹感がプラスされたのか、むしろ美味しく感じました。
「そばはマニラに限る、のかな」。
有名な落語の演目がひょこっと浮かんだりして。
流通機能と冷蔵、冷凍技術の発達で、ラーメンなどは材料をそっくり日本から運び、現地では調理するだけとか。
同じ味を口にしてもなんら不思議でない時代なんでしょうね。
よもやと思った南国での蕎麦だっただけに余計美味しかったのかも。
いずれ辻蕎麦もこうした形で、外国の人々に至福のひとときを楽しんでもらえたら、と夢を広げました。

2016年3月 辻蕎麦便り

 弥生。

早春という言葉がぴったりの月です。
首都圏などでは、梅が満開で、早いところではぼちぼち桜の便りも聞かれるころではないでしょうか。
そうはいっても北国山形、例年のこの季節ならまだ一面が真っ白な世界です。

 「日本の気象は近年、年を追うごとに荒々しさを増している」という気象関係者の一文を目にしたことがあります。
確かにゲリラ豪雨とか竜巻といった言葉を耳にすることはそれほどありませんでした。
原因はいろいろあるのでしょうが、それはともかく、今シーズンは山形市や天童市の周辺にとっては、荒々しいどころか実に優しい冬でした。
こんなに雪の少ない冬は観測開始以来初めてではないでしょうか。
1月18日以前はほとんど雪なし状態でした。
その後一気に30㌢ほど積もりましたが、2月14日から急激に解け出し、19日には観測値なしに。
2月中旬といえばせっせと道路の除雪作業をしている時期ですが、ことしは雪がほとんど見当たらず、地面から草花の芽が顔をのぞかせ始めています。
「こんなに早く芽吹いて大丈夫かい。これからだって氷点下の日がやってきて、凍みちゃうよ」と思わず声をかけたくなる感じです。
梅も3分咲程度にはなってきています。積雪期間がわずか1カ月などというのは本当に信じられません。

 急激に雪が解け始めた2月中旬にちょっと珍しい体験をしました。
去年の11月20日過ぎに、大きめのプランターにホウレンソウの種を蒔きました。
時期的には1カ月以上遅れてしまったのですが。
支柱とビニールの袋を加工しミニミニ温室のように仕立てました。
いくら温室もどきのプランターで育てているといっても、気温が急降下する時期で、芽吹いたままでじっとして動かない。
3月末か4月初めころにならないと伸びないだろうなと思っていたら、雪解けに合わせるように急成長。
あっという間に密植状態になりました。
7、8㌢に育ったものを徹底的に間引きしたら、両手で2つ分ちょっとありました。

 おひたしでなく、サラダで食べてみてびっくり。
多少のえぐ味は覚悟していたものの、それが全くありません。
グルメレポーターのように上手に表現できませんが、みずみずしいし、しゃきっと歯ざわりも良く、まさに“早春”を味わっているような気がしました。
自分で育てる人以外には手の届かない貴重な味です。首都圏などでは、プランターに種を蒔くだけなので、一度試してみてはいかがでしょうか。

 この気象、美味しいソバができるように作用してくれることを願っています。