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2016年2月 辻蕎麦便り

 如月。

先月の「辻蕎麦便り」で、間もなく山形も白一色の世界になるでしょう-と書きました。
ところが、ところが、月中ばに至っても景色は初冬のまま。
大方の人は「暖冬で過ごしやすいね」などと言ってましたが。
しかし雪国では、雪がないと仕事にならない人も結構います。
スキー場や除雪関係者などで、こうした人たちが悲鳴をあげ始めました。
そして果樹なども。
気温が高めになので、早々と花芽を膨らませたのです。
花芽は気温が一気に低下するとダメになってしまいます。
山形は果樹王国。
どうなるのだろうと心配していましたが、18日から19日の大寒波で、一夜にして除雪車が往来するほどに。
その後は積雪30㌢前後で推移しています。
もっとも道路にはほとんどありませんが。

 雪は人々の日常に多くの制約を加えてきましたが、同時に雪に閉ざされた生活の中での発見もありました。「雪の下から掘り起こす野菜は甘味があって美味しい」「穀類を雪の中に入れておくと劣化しない」など。
だれに教えられたわけでもなく、農家の人たちは経験的にこうした知識を身につけたのです。
科学が発達した現代では「作物の糖化現象」と説明されています。
野菜や穀類は寒さで凍るのを防ぐために自らタンパク質を糖分に変えるのだそうです。
この他にも微妙な変化があり美味しさを増す作用をしているといわれます。

先月、山形県内の雪深い山里のそば店で、「霜降りそば」というのに出会いました。
播種を遅くし、わざわざ霜に当てるのだそうです。
当然のことながら収量は普通の栽培に比べ半分から3分の1くらいとか。
初年度の今回はこのお店だけが期間限定で出しているということです。
やはり甘味の強い蕎麦でした。
地区でテスト的にやってみたが、徐々に栽培面積を増やしていく計画のようです。

 雪を鮮度保持に役立てているのが雪室。
降り積もった雪を断熱施設を施した建物の中に大量に敷き詰め、天然の冷蔵庫にするのです。
最大の利点は気温が0°から5°くらいとほぼ一定しており、しかも湿度が90%以上にもなることです。
乾燥を防ぎ、擬似冬眠のような状態を作り出すことによって鮮度を保つのです。
天然の再生エネルギーを使うので温暖化防止にも役立ちますが、なんといっても一般の冷蔵庫とは比較にならないほど鮮度保持力が高い。
こうした施設があることで、夏場でも風味の落ちない蕎麦を楽しめるのです。

 ここまで書いてきて、日本海の港近くに住む友人の「真鱈の白身を昆布ではさみ一夜雪の中に置いたのは本当にうまいぞ」という話を思い出しました。
昆布締めで熱燗をきゅっとあおり、蕎麦をたぐる、想像しただけで思わず…。

 今月もよろしくお願いいたします。

2016年1月 辻蕎麦便り

睦月。

今年の元旦は全国的に穏やかな天気で、初日の出をご覧になった方も多かったようです。
また実に暖かなお正月となりました。理由はいろいろあるようですが。

 山形や天童では2004年以来となる積雪ゼロの年明けでした。
日陰のところどころに真っ白な粉砂糖をふわっと振りかけたような“雪”が目につく程度です。
ちなみに昨年の元旦は40cmほどの雪で覆われていました。まさに異変ではないでしょうか。
全国に知られる民謡「花笠音頭」で「雪をながむる尾花沢」とうたわれる豪雪地帯の尾花沢市でさえ、うっすら積もった雪の間に田んぼの土が見え隠れするほどです。
もっともひと冬中雪なしということはさすがに考えられません。
降る雪の静寂さに包まれる日も近いことでしょう。

 雪にもいろいろな現象があります。
雪国以外の方にはちょっと珍しいものを紹介します。
「俵雪」。
地域によっては「雪俵」とも呼ぶそうです。
山形県の日本海側の庄内平野で時折目にします。
果てしなく広がる雪原の表面が少し締まったところに強風が吹くと、薄くめくれて細い筒状になって転がります。
転がる時に下の雪を雪だるまのように付け、次第に俵状になっていきます。
小さな小さな米俵があっちにもこっちにも。
地元の人ならともかく、旅人には雪原に何が大量に落ちているのか一瞬首をかしげる光景です。

 「地吹雪」。
吹雪は舞い落ちる雪が風によって横殴りに吹き付けてくるものですが、「地吹雪」はそうではありません。
大量に積もった粉雪が強風によって吹き上げられる現象です。
地上から普通乗用車の屋根の高さほどまでが、猛スピードで流れ行く粉雪の層に閉じ込められたようになります。
車を運転している時に見舞われると、周囲は完全に白一色。
ほんとうにひどい時は、フロントガラスに白い紙を貼られたようになり、ボンネットすら見えなくなります。織田裕二や松嶋菜々子が出演した「ホワイトアウト」という映画がありました。
地吹雪は究極のホワイトアウトと言えましょう。
こんな場面に遭遇した車に乗っていたら驚きと恐怖で言葉を失うかもしれません。
もっとも車から出て見上げるときれいな青空ということがほとんどです。
視界に映るのは白と青だけの幻想的な世界でもあります。
 
 ソバ畑は間もなく分厚い雪に覆われしばしの休息に入ることでしょう。
この間に美味しいソバを育む力を養うのです。
辻蕎麦も作り手一同さらに精進を重ね、より美味しい蕎麦をお届けします。

 今年も宜しくお願い申し上げます。