如月。
先月の「辻蕎麦便り」で、間もなく山形も白一色の世界になるでしょう-と書きました。
ところが、ところが、月中ばに至っても景色は初冬のまま。
大方の人は「暖冬で過ごしやすいね」などと言ってましたが。
しかし雪国では、雪がないと仕事にならない人も結構います。
スキー場や除雪関係者などで、こうした人たちが悲鳴をあげ始めました。
そして果樹なども。
気温が高めになので、早々と花芽を膨らませたのです。
花芽は気温が一気に低下するとダメになってしまいます。
山形は果樹王国。
どうなるのだろうと心配していましたが、18日から19日の大寒波で、一夜にして除雪車が往来するほどに。
その後は積雪30㌢前後で推移しています。
もっとも道路にはほとんどありませんが。
雪は人々の日常に多くの制約を加えてきましたが、同時に雪に閉ざされた生活の中での発見もありました。「雪の下から掘り起こす野菜は甘味があって美味しい」「穀類を雪の中に入れておくと劣化しない」など。
だれに教えられたわけでもなく、農家の人たちは経験的にこうした知識を身につけたのです。
科学が発達した現代では「作物の糖化現象」と説明されています。
野菜や穀類は寒さで凍るのを防ぐために自らタンパク質を糖分に変えるのだそうです。
この他にも微妙な変化があり美味しさを増す作用をしているといわれます。
先月、山形県内の雪深い山里のそば店で、「霜降りそば」というのに出会いました。
播種を遅くし、わざわざ霜に当てるのだそうです。
当然のことながら収量は普通の栽培に比べ半分から3分の1くらいとか。
初年度の今回はこのお店だけが期間限定で出しているということです。
やはり甘味の強い蕎麦でした。
地区でテスト的にやってみたが、徐々に栽培面積を増やしていく計画のようです。
雪を鮮度保持に役立てているのが雪室。
降り積もった雪を断熱施設を施した建物の中に大量に敷き詰め、天然の冷蔵庫にするのです。
最大の利点は気温が0°から5°くらいとほぼ一定しており、しかも湿度が90%以上にもなることです。
乾燥を防ぎ、擬似冬眠のような状態を作り出すことによって鮮度を保つのです。
天然の再生エネルギーを使うので温暖化防止にも役立ちますが、なんといっても一般の冷蔵庫とは比較にならないほど鮮度保持力が高い。
こうした施設があることで、夏場でも風味の落ちない蕎麦を楽しめるのです。
ここまで書いてきて、日本海の港近くに住む友人の「真鱈の白身を昆布ではさみ一夜雪の中に置いたのは本当にうまいぞ」という話を思い出しました。
昆布締めで熱燗をきゅっとあおり、蕎麦をたぐる、想像しただけで思わず…。
今月もよろしくお願いいたします。