やまがた辻蕎麦 のすべての投稿

2022年 12月号 辻蕎麦便り

雪道でのんびり車を運転しながらラジオを聴いていたら、
「1年はお盆を境に時間の速さが違う気がする。お盆が過ぎると急に速くなるようで…」
と流れて来ました。
言い回しは正確でないかもしれませんが、内容はこんなものでした。
言われて見れば、確かにその通りかもしれません。

現役の頃は仕事に追われて、いつの間にか1年が終わり、そして次の年が始まるの繰り返しでした。
1年中、同じ速さで時間が経過していた。
いやその時の仕事の好不調で若干違っていたのかもしれないが、それに留意することさえありませんでした。
ところが、ささやかながら野菜作りに勤しむようになってから、時の速さは一定でないと感じるようになってきました。
雪融け後からお盆のころまではやることが多く慌ただしいが、お盆の後の何かに追われるような時間の感じ方ではありません。
寒さや降雪期の前に農作物の収穫を終え、その後始末を行い、来年に備えなければならない。
いわば締め切り的なものを意識して行動しなければならないことでそういう感覚に陥るのでしょうか。

わが家では毎朝、自家栽培の生野菜でサラダを作っています。
採りたての葉物は柔らかいしそれぞれの味がしっかり分かって実に美味しい。
問題は降雪期です。
積雪の少ない時期なら、雪をどけて水菜や春菊、小松菜、ホウレンソウなどを食卓にのせられます。
しかし雪の多くなる1月や2月は容易でありません。
残念ながら買い求めた野菜を使わざるを得なくなります。
ささやかな菜園でハウス栽培など無理なので、この期間は仕方がないとあきらめていました。

今月に入り、ふと暖房している部屋の熱を利用しない手はないのではないかと思いました。
人が暖まっているだけではもったいない。
深めの発泡スチロールの箱に堆肥と肥料を混入した土を浅く入れ、7種類の野菜の種が混合しているムスクランを撒き、透明なビニール袋に包み段ボール箱の上に置きました。
2、3日して、雪が降り続き白一色となった外界とは打って変わって淡い黄緑色の新たな生命が一面に。
春先の菜園での芽吹きも嬉しいのですが、それとは違った感動が湧いてきました。
真冬のささやかな野菜作りがこれからどうなるのか、その味も含めて楽しみです。
それに来年からもう少し早めに、もう少し数を増やしてやれば、お盆の後の時間の流れが変わるのかもしれないなどと思っています。

新型コロナウイルスの蔓延に加え、今年はロシアによるウクライナへの軍事侵攻が行われています。
それに伴う地球規模でのエネルギー不足や物価高騰などで多くの人々の生活を脅かす出来事が次々と発生しています。
戦いは多数の犠牲者を生み、創意工夫し莫大な経費と時間と労力を費やしてつくり上げた諸々を破壊し、結果的に悲嘆と憎悪、荒廃しかもたらしません。
こんな分かりきったことをなぜ繰り返すのでしょうか。
一日も早く和平への道を歩んでほしいものです。

「今年も大変お世話になりました。来年こそ新型コロナウイルス禍が治まり平穏な日常が戻ることを強く願っております。どうか良いお年をお迎えください」。
これは昨年の12月号に書いたものです。
来年こそは本当に他の文章で締めたい、と心から念願しております。(2022/12/30)

2022年 11月~12月号 辻蕎麦便り

今月に入って青空が広がる日が多く、ちょっぴり浮き立つ気持ちで過ごすことが出来ました。
紅葉にしても枯れ葉にしても青空をバックに太陽の光が透過し、クリアなX線写真のように葉脈を浮かび上がらせ、自然の造形美をたっぷり堪能させてくれる。
この季節ならではです。
異常気象に振り回されたこの1年ですが、季節感が比較的素直な月だったのではないでしょうか。

月末になりいよいよ天気予報に雪だるまのマークが登場するようになりました。
雪は自然の大いなるダム湖。
人間を含め生物が生きていくのに極めて重要だということは分かりながらも、雪国で暮らしていると、ついつい余計なものに思えてなりません。
天気予報の雪だるまに加えて、この時期は日照時間が極めて短い。
朝の6時ころでも薄暗く、張り切って起きようかなどという気分には到底なれません。
まして雨や雪ということになれば、少々ハイテンションの人でも憂鬱になるのではないでしょうか。

西高東低の完全な冬型気圧配置になる前に済ませようと、中旬頃から庭の樹木の雪囲いを始めました。
職人さんと違って手際よくてきぱきと進められるわけもなく、他の用事を抱えながらなので亀さん並みのスピードでやるしかありません。
なんせ長さが3㍍前後で、大人が両手でやや小さめの輪をつくったくらいの太さの稲杭、それと似たような長さで幅15㌢ほどの板を樹形に沿って立て掛け、藁縄で結束していきます。
1本の樹木で10数本必要なものが多く、結構な重さがあるし、縄を結ぶのも容易でありません。
雪の重さに耐えるような縄は結構な太さと硬さがあり、日に日に指の関節や筋に痛みが増してきます。

そんな作業の最中、縄を結び終え何気なく隣に目を移したら白く小さい桜の花びらが飛び込んできました。
えっ、雪囲いの時期に桜の花。
シキザクラ。
春と晩秋の年に2回開花する珍しい桜です。
花をつけたのをうっかり見逃していたので、一瞬ドッキリしました。
そうか今年も咲いていたんだ。
春に比べてか細げに映る花びらは晩秋の冷気にさらされより憐れを覚えます。
12月早々には降雪が予想されています。
降雪量はどうか平年並みか若干少なめでお願いします、と作業をすべて終えたあと天に向かって祈りました。

相変わらず新型コロナがはびこっています。
秋風が吹き始めたころから山形県では急激に感染者が増え、一時10万人当たりの感染者数が沖縄県に次いで全国2位になったというニュースが流れました。
その後もなかなか減少せず、小中学校などの学級閉鎖が相次いでいるといった話も聞こえてきます。
「もうそろそろではないか」「来春こそは」と幾度繰り返してきたことやら。
もう本当に勘弁してほしいものです。