2024年 8月~9月号 辻蕎麦便り

「夕立」「通り雨」。真夏の雨をながめていると、この2つの言葉が訳もなく浮かんできます。
地球温暖化などといった言葉のないころのことですが、夏の日の午後、真っ青な空に入道雲が湧き立ち、遠くから鋭い光の後を追うように雷鳴が。
それが次第に近くなり、同時に黒雲が現れ、ぽつぽつと落ち始めたと思う間もなくジョウロを傾けたような雨に。
ほどなくして止んだ後は、どこかひんやりして涼感を漂わしてくれました。
クーラーなど無かった時代。
ほてった肌を冷やしてくれたあの雨上がりは忘れられません。
懐かしさからかもしれませんが、同じ雨ながら情緒があったような気がします。

それに比べ昨今の雨はなんなんでしょうね。
ジョウロどころかバケツの水をそのまま空け、「ゴー」という音が聞こえてくるような感じです。
熱帯雨林に短時間思い切り降り注ぎ、地表を一気に水浸しにする「スコール」そのもの。
菜園の雑草取りを中断させられ、作業小屋の軒下で水のカーテン越しに広がる光景をぼんやり見ていると、まるでジャングルの中に身を置いているような錯覚を覚えます。
周囲の樹木がバナナやヤシの木のような気がしてきたりして。
それに雨が上がった後も、吹いてくる風がなぜか生暖かい。
日本の夏はすっかり様変わりしたんですね。
連日のように熱中症警戒アラートが発表され、全国のあちこちで線状降水帯が発生し、水害被害が続出しています。
山形県内でも7月末に庄内と最上地方が記録的大雨により、大きな被害が発生しました。
住宅の全半壊や道路の損壊、農用地への土砂流入など山形県のまとめによりますと現段階での被害総額は889億円に上るということです。
こうしたことが全国各地で起きているわけですから本当に大変です。

先月下旬だったか今月上旬か定かでありませんが、首都圏の友人が「スーパーなどでお米が消えかけている」と不満げに話したときは「えっ、本当」と思わず耳を疑いました。
昨年は高温障害でお米が白濁し品質が下がりましたが、いくら端境期といえまさか品薄になり、値上がりまでしているとは。
要因はいろいろあるようですが、日々頭が垂れ下る稲穂の波がどこまでも広がる光景を見ていると、農協の直売所やスーパーのお米コーナーが空っぽになっている現実が異次元のような気がして仕方がありません。

いずれにしてもほどなく新米がお店のお米コーナーを埋め尽くすでしょうが、気掛かりなのが台風10号。
数十年に1度の強さといわれる台風が鹿児島から上陸し、日本列島をじっくり時間をかけて縦断しそうという。
冗談じゃない、収穫目前のこんな時期に全国をなめるようにして北上するとは。
一刻も早く消滅して欲しいのですが。

(2024/08/31 辻蕎麦HP)