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2025年 4月~5月号 辻蕎麦便り

「故郷や どちらを見ても 山笑う」正岡子規。
郊外を車で走りながら目の前に現れる山々を見ていると、まさに笑いかけてくるよう。
待ちに待った季節到来で妙にワクワクしてきます。
「山笑う」は俳句の季語として使われている言葉ですが、早春の山の草木が一斉に芽吹いて明るい感じになる光景を指しているそうです。
4月の山形周辺の山の姿を表現するにはぴったりで、よくぞこんな言葉を思いついたものだと古人の感性の豊かさに感心してしまいます。

山桜が白く染まるころから周囲の木々も淡く、本当に淡い色合いながら様々な表情を見せ始めます。
山肌を染めている色彩をきちんと見極めたら、恐らく数十種類にもなるのではないでしょうか。
そして萌黄色が山全体を包んだと思ったら、あっという間に緑が濃さを増していきます。
雪に閉ざされた冬の重苦しい雰囲気を一気に打ち払い明るく温暖な世界の訪れに、山と同様こちらも思わず笑みがこぼれます。

今月中旬、馬見ヶ崎川沿いに広がる満開の桜のトンネルを上流から楽しもうと、山形市東部の紅花奥の細道ロードを山寺方面から東沢に向かいました。
高瀬地区の村山高瀬川に近づくと、たくさんの鯉のぼりが河川の上で悠然と泳いでいるのが目に飛び込んできました。
見とれているうちにうっかり橋を渡って通り越しそうになり慌ててUターン。
橋のたもとの集落を抜けると河川そばに臨時の駐車場が設けられていました。

地区の有志が10数年前から川の上空にロープを張り、鯉のぼりを揚げているのだとか。
不要になった鯉のぼりが寄せられ、当初は4、50匹だったのが今では約350匹に。
雪解けで水しぶきをあげながら流れる川、そして青空と満開の桜並木をバックに泳ぐ色とりどりの鯉のぼりはまさに一枚の絵のよう。
その光景に懐かしい記憶がよみがえります。
多くの家で屋根より高い柱を庭先に建て、真鯉や緋鯉を揚げていました。
柱を建てるのは大変な力仕事で、大人3、4人が必要なほどでしたが、鯉のぼりが泳ぎ始めると気持ちが一気に膨らんだものです。
しかしいつのころからかそんな風景もほとんど目にすることはなくなりました。

風が弱まり泳いでいた鯉のぼりが垂れてきました。
尻尾には寄付者の地域と氏名が記されています。
そういえばあのころの鯉のぼりはその後、どうなったのでしょうか。
ひょっとしたらここで再び大空を泳いでいる鯉のぼりたちの仲間入りをしていたら嬉しいのですが。

桜の開花期はジャガイモの種芋の植え付け適期でもあります。
これを皮切りに、様々な野菜の播種や苗の定植が目白押し。
問題はこれからの気候がどうなるかです。
気象庁によりますと、赤道付近の海面水温が平年より高くなるエルニーニョ現象が終息したので、この夏は去年のような危険な暑さになる可能性は低いということです。
高温障害でいろいろな野菜や果樹が大きな被害を被った昨年の夏。
この予想が的中して作物が順調に育ち、物価高の中で消費者が野菜高騰に悩むことがないよう願っています。

(2025/04/30 辻蕎麦HPより)

2025年 2月~3月号 辻蕎麦便り

先月「雪国山形」の「雪国」を返上しなきゃなどと書いた途端に、それこそ「どん」と音がするくらい降ってきました。
大寒になっても山形としては雪が少なく、暖かめだったのでひょっとしたらと思ったのですが、そうは問屋が卸しませんでした。
まさか立春とともに最大級の寒波と大雪がやってくるとは。
天がどこかで辻褄を合わせようと虎視眈々と狙っていたとしか思えません。
先月末の山形の市街地はほとんど白い世界が姿を消していたのに、いきなり60㌢近い積雪に。
慣らし運転がなかった分だけ除雪作業はきつく感じられました。

 県内全体がすっぽり雪の下に埋もれてしまいました。
気象庁のデータで青森県酸ヶ湯と豪雪全国一を競う大蔵村肘折は23日に336㌢を記録。
以前、3㍍超えの時期に肘折温泉を訪ねたことを思い出しました。
路面はきれいに除雪されていますが、運転席から見える空はうず高い両側の雪の壁にさえぎられてきわめて狭く、異次元の世界に迷い込んだよう。
交差点のカーブミラーなどはすっぽり埋まっています。
同じ雪国の山形市周辺でもなかなか想像できない光景です。
ことしも除排雪作業はさぞ大変だろうと思いをはせていたら、「3㍍程度で甘いんじゃない」という声が聞こえてきそうなところがありました。
「隠れ豪雪日本一」をうたう西川町志津です。
町役場が毎日積雪を公表していますが、1月31日に412㌢と4㍍を超え、今月20日には514㌢と5㍍を突破。
24日には536㌢までに積み上がりました。
気象庁の観測地点でないため公式記録にはなりませんが、人が住んでいる地域での積雪日本一は間違いないでしょう。
雪が多過ぎてリフトを運航できず、スキー場開きが4月中旬というのもうなずけます。

 大寒波と豪雪のニュースが飛び交う中、思わず「?」が頭を駆け巡るような出来事が。
新庄市街地のど真ん中にクマが出没しているというのです。
1日から2日にかけて中心部を移動。
市民会館やJR新庄駅前などで目撃され、最後は麻酔銃で捕獲されました。
その翌日の3日には、酒田市郊外の集落で目撃され、民家の車庫に36時間ほど籠城し姿を消しました。
両市とも山裾から目撃された地点まではかなりの距離があり、途中に集落が数多く点在しています。
2頭ともそこを気付かれずに通り過ぎ、どうしてわざわざ遠くまでやってきたのでしょうか。
不思議です。
この時期、クマたちは雪に閉ざされた山中で深い眠りについているはず、まさか里で動き回っているなど驚き意外にありませんでした。
専門家が新聞やテレビで降雪期に出没した理由を解説していましたが、どうやら異常気象がクマたちから降雪期の眠りを奪っているようです。
地球温暖化による影響は本当に多方面に及んでいるのですね。

(2025年02月28日 辻蕎麦HP)