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2024年 12月号 辻蕎麦便り

師走。
「野菜が本当に高い。涼しくなったら、少しは安くなるのではと思っていたのに、とカミさんがぼやいていた。自分の畑で野菜を作っているなんて、うらやましい限りだ」。
首都圏に住む友人と電話で互いに近況報告していた中の一コマです。
いやいや野菜が高いのは都会だけではありません。生産地でも同じです。
たまにスーパー巡りをすると、いつもの2倍くらいに跳ね上がっている値札をみて目を見張ります。

先日、農林水産省が「野菜の生育状況及び価格見通し(令和7年1月)について」を発表しました。
それによりますと、「夏秋期の高温や12月の低温等の影響により、出荷数量が平年を下回り、価格が平年を上回って推移する品目がある一方、果菜類などで前月から徐々に落ち着くもの、一定程度の範囲に収まる品目もある見込みです」とありますが、その内容に思わずうなりました。
大根、ニンジン、白菜、キャベツ、ホウレンソウ、ネギ、レタス、キュウリ、ナス、トマト、ピーマン、馬鈴薯、里芋、タマネギ、ブロッコリーの主要野菜15品目ごとに生育、出荷、価格の見通しが掲載されていますが、平年(直近5年間)並みでというのは里芋だけで、残りの14品目すべて値上がりを見込んでいます。
食卓に欠かせない野菜類のほぼすべてが高値では、家計に与える影響は少なくありません。

今年はわが菜園でも多くの野菜が高温や少雨で様々な影響を受けました。
悔しさを通り越して思わず笑ってしまったのは春に種をまいた大根。
きれいに発芽し楽しみにしていたのですが、成長期にほとんど雨が降りませんでした。
どうしていつまでも太らないんだ、と気づいたときには完全に手遅れ。
水分がほとんどないゴボウのような大根が出来上がっていました。
とても食べられる状態ではありません。こんな経験は初めてで、野菜栽培には水分が必要という初歩中の初歩を改めて学びました。

白菜、キャベツ、レタスという結球ものもうちそろって落第。
まさに例年通り、例年のごとく種をまき、苗を植え付けたのですが、なかなか成長の兆しが見えません。
ようやく結球が始まったと思ったら、ほどなく止まってしまいました。
これらの野菜は生育や結球に適した気温帯があります。
今年は10月中旬まで夏日があり、暑さが続きました。
そして秋を感じる暇もなく初冬へ。
これじゃ結球している時間がありません。
結球しても小さかったり、球が緩かったりで、自家消費なら問題ありませんが、商品にはならないでしょう。
わが菜園では従来通り黒マルチを使用していたので、より暑かったのかもしれません。
きちんと対応しなかったのが不出来の一因なので、天災と人災が相半ばした感じです。

気象庁のまとめでは、今年1月から11月までの全国の平均気温は平年より1.64℃も高かったとか。
これまで最も高かった昨年の1.29℃を大きく上回り、統計を開始した1898年以降最も高い数字で、いかに厳しい暑さだったかが分かります。
人災の部分は創意工夫で改善できそうですが、天災の部分はそう簡単にはいきません。
専業農家の方々の苦労がしのばれます。
来年は四季をしっかり感じられる気候であってほしいと心から願っております。
(2024/12/31 辻蕎麦便り)

2024年 10月~11月号 辻蕎麦便り

ここ数年、異常気象が思いもよらないことを引き起こすことはわがささやかな菜園でもしばしばありました。
その多くは後で振り返ると、多分あれが、とおぼろげながらも原因にたどりつけました。
しかし、今回の出来事は皆目見当がつきません。
いまだに頭の中は「?」でいっぱいです。

ことしの柿はいつもの年より色づきが早く、月を越して間もなく日々緑色が薄まり赤身を帯びていきました。
わが菜園の柿の木は80年近い樹齢を数える平核無(ひらたねなし)の老木ですが、有難いことにそんなに頑張らなくてもいいよと労わりたいくらいたくさんの実をつけます。
柿は裏作、表作があり、しっかり剪定と摘果をして管理しないと収穫量は年ごとにかなりばらつきが生じます。
昨年も多かったが、ことしもやたら多いので、6月から7月にかけて懸命に摘果作業を行いました。
下のほうは一枝に1個から2個とセオリー通りですが、上の方は葉に覆われていたところを見落としたらしく、あちこちがブドウの房のようになっています。
全体で7、800個くらいはなっているでしょうか。

今月上旬、数日目を離したすきに珍事は起こりました。
徐々に緑色が薄まる仲間をしり目に、音速どころか光速のような猛スピードで熟成している実が10数個あったのです。
例年なら11月中旬ころからでないと目にしない真っ赤に色づき太陽の光を浴びると内側が透けて見えるような樹上完熟柿が生まれていました。
平核無は渋柿ですので、焼酎などによる渋抜きか干し柿にしなければ食べられません。
ところが10数個のうちの1個を鳥が啄んでいたのです。
それを見た柿好きの連れ合いが「鳥が食べるくらいだから、渋くないんじゃない」と止める暇もなくパクリ。
「中はトロトロで渋みは全くない。それに甘みもしっかりあり、収穫し残した樹上完熟柿より上品な味がする」
と満足げな笑顔で2個目に手を伸ばす。
こうなると黙ってみているわけにはいきません。
1個もぎ取り、2つに割って舌先でそっと舐めてびっくり。
雪をかぶる季節の樹上完熟でもどこか渋みが残っているものがありますが、全く感じられません。
渋抜きや干し柿、樹上完熟でこれまでどれほどこの柿を食べてきたか分かりませんが、最高の味のような気がします。

時がたてば彼らに引き続き後続部隊が当然のごとく現れるものと思い込んでいたのですが、完熟したのはその10数個だけ。
とはいえ、完熟しているものがあるということは全体に熟度が相当に進んでいるということか、と慌てて近くの柿をもぎ取り焼酎で渋抜きしてみましたが、残念ながら甘みのうすーい柿しかできませんでした。
この10数個だけが特別で、あとはごく普通の生育状態だったのですね。
10数個は南側のやや下の方の枝になっていたのですが、超スピード樹上完熟の原因のなんたるかはこの辺にあるのでしょうか。
もっとも素人には貴重な体験と味をプレゼントしてもらっただけでも十分です。

(2024/10/31 辻蕎麦HP