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2016年5月 辻蕎麦便り

皐月。

「春爛漫」。
「爛漫」という言葉は「桜花」と組み合わせて使われることが多いせいか、一般的には桜の季節という印象が強いようです。
5月に入ってからでは、色あせてピンと来ない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし山形市や天童市のある山形盆地は、ゴールデンウイーク中がまさに「春爛漫」なのであります。

 お花見を終え、葉桜の様相を呈してくる4月下旬になると、サクランボをはじめリンゴ、モモ、ナシなど果樹の花が一斉に咲き始めます。
ちょっとした高台からの眺めは、白と薄紅色に埋め尽くされ、いささか平凡な表現ですがまさにお花のじゅうたんを敷き詰めたよう。
青空の下、遠くに残雪いただく山並みをバックにした光景は、毎年見慣れているとはいえ、思わずうっとりしてしまうほどです。

 天童市の北隣東根市に山形空港があり、近くに大規模工業団地が造成され県が熱心に誘致運動をやっていた時期がありました。
30数年前、在日米国商工会議所のメンバーが空路、この工業団地を視察しに来たことがあります。
「春爛漫」の季節で、飛行機から見下ろしたら広大なお花畑にぽつんと開けた空港に吸い込まれていくような感じがしたとか。
周囲がこんなに良い環境の空港や工業団地は見たことがない。
本当に素敵だ。
世界中を渡り歩いてきた有名大企業の重役たちが興奮しながら語っていたのを思い出します。

 暖冬傾向のことしは、「春爛漫」も早々と店じまい。
それに替わってハウスの中ではもうサクランボが色付き始めました。
季節が駆け足で変わっているようでいささか味気ない感じがしております。

 残雪をいただく山並みのひとつに月山があります。
昨年5月のこの便りでは夏スキーを紹介しましたが、今回は「ゆきもみじ」を。

月山山麓に広がる広大なブナ林の下には、まだ相当の雪が残っています。
ブナの花芽を包んでいた芽鱗は紅色で、芽が膨らんでくると落下してきます。
真っ白な雪の上一面に紅葉が散ったような光景になります。
遠目には白と赤のコントラストが実にきれいです。
だれが名付けたんでしょうね。

「ゆきもみじ」。

日本人らしい感性から生まれたぴったりの言葉だと思います。
例年なら5月中下旬ですが、ことしはひょっとしたらもう始まっているかもしれません。
麓の方から萌黄色が早足で登り始めていますし・・・

2016年4月 辻蕎麦便り

卯月。

桜前線北上中。
昨年の書き出しと同じで、いささか気が引けますが、この季節はやはりこの言葉が浮かんできます。
便りが届くころは首都圏では花吹雪から葉桜へ、北国では蕾が大きく膨らみ、陽当りの良いところから一輪、また一輪と花びらをひろげていることでしょう。

桜といえば、やはりソメイヨシノでしょうか。
青空に映える淡いピンクの豊かな花房は妖艶ささえ感じさせます。
雪国に住むわれわれにとっては、まさに待ちに待った春到来の景色です。
交配種であるソメイヨシノの寿命は約80年。
人間とほぼ同じということです。
ひょっとしたら、そうしたこともより魅入られる要因なのかもしれません。
山形県には、ソメイヨシノの寿命をはるかに超える樹齢約1200年という古木が2本あります。
県南部の長井市にあり、いずれもエドヒガンザクラで国指定の天然記念物になっています。
長井市のホームページによりますと、伊佐沢の久保桜は樹高13㍍、江戸時代には枝の広がりが4反(3968平方㍍)もあったため四反桜(よんたんざくら)と呼ばれていました。
もう1本は草岡の大明神桜。
樹高14㍍、東西の枝張27㍍もあり、個人宅に植えられた桜としては国内最大級の大きさを誇っているということです。
2本とも見る人々を圧倒する迫力がありました。
夕暮れどきなどにじっと見ていると、思わず引き込まれてしまうような感覚に陥ることさえありました。
まさに精霊が宿る樹です。
残念ながら10年ほど前から樹勢が衰え、風雪をくぐり抜けてきた以前のような凛とした力強さが急速に失われてきています。
あわれさえ覚えるほどで、寂しいかぎりです。
専門家の助言を受け、樹勢回復処置を計画的に行っており、徐々に効果がでているとのことですが、早く往年の姿を取り戻してほしいと願ってやみません。
長井市周辺には樹齢数百年という古木が多く、置賜さくら回廊という観光コースを組んでおります。
4月中旬から下旬が見ごろ。
お出かけになってみてはいかがでしょうか。

友に誘われ10数年ぶりにマニラに行ってきました。
気温が連日35、36°の南国。
ラーメン店はやたら多いが、蕎麦屋は見たことがない、と現地の知人。
ところがひょんなことから蕎麦屋が目に飛び込んできたのです。
屋号は首都圏の駅近くでよく見かける立ち食いそばの名前。
店内は立ち食いでなく、普通の小奇麗な蕎麦屋さん。
肝心のお味は。
盛りとかけをいただきましたが、国内と遜色なし。
いや空腹感がプラスされたのか、むしろ美味しく感じました。
「そばはマニラに限る、のかな」。
有名な落語の演目がひょこっと浮かんだりして。
流通機能と冷蔵、冷凍技術の発達で、ラーメンなどは材料をそっくり日本から運び、現地では調理するだけとか。
同じ味を口にしてもなんら不思議でない時代なんでしょうね。
よもやと思った南国での蕎麦だっただけに余計美味しかったのかも。
いずれ辻蕎麦もこうした形で、外国の人々に至福のひとときを楽しんでもらえたら、と夢を広げました。