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2023年 6月~7月号 辻蕎麦便り

水無月。

「空気神社で3日、4年ぶりに“みこの舞”が奉納されました」
というニュースを今月初めに目にしました。
懐かしかったですね。
この神社を訪ねたのは30年ほど前。
ユニークの塊のようなこの神社は1990年に最上川中流域にある朝日町の山懐深い地に造られました。
好奇心に駆られ、出来てほどなく足を運んだような気がします。

 ご神体はなんと空気。
世界でたった一つの神社です。
神社の案内資料によりますと、昭和48年に町民の1人が、
「山の中のきれいな空気の中で仕事をしていると、平地で仕事をしている時よりも疲れにくい。これは、豊かな自然が作り出す澄んだ空気の恩恵である。町に空気神社を建立し空気とそれを生み出す自然に感謝しよう」
と提案したのがきっかけでした。
この事業が実際に動き出したのは10年ほどたってからで、マチおこしの一環として具体化。
有志が集い、自然環境を大切にし、空気の恩恵に感謝するモニュメントとして神社建設を企画し、町内外で募金活動を行い実現にこぎつけました。

 町の中心部から車で20分ほどの山中にあります。
もっとも普通の神社のような鳥居や社殿があるわけでなく、目に入るのは玉砂利を敷き詰めて設けた枠の上に鎮座する磨き上げられたステンレス。
5㍍四方の巨大な鏡になっており、四季折々の空間を映しこみ空気を表現するのだとか。
訪れた時も青空と周囲のブナ林の緑が鮮やかに映り、同じ林の中でも不思議に空気感が違ったのを覚えています。
この巨大鏡の地下3㍍に本殿があるということですが、普通の日だったので見ることが出来ませんでした。
12個の甕に12カ月それぞれのきれいな空気を入れて祀ってあるのだとか。

 6月の空気まつりで舞を奉納するのは巫女さんでなく、巫女の衣装を身に着けた町内の小学4年生から6年生の女子児童。
映像や写真で見ると、鏡面に映るブナの緑と衣装の紅、白のコントラストが実に素敵です。
いずれは空気まつりに足を運びたい、そんな気持ちを掻き立てくれます。
地球温暖化により異常気象に相次いで見舞われている昨今ですが、自然環境の大切さと空気への感謝の念をモニュメントにしようと50年も前に提案した先人、それを具体化した人々が県内にいたことを誇りに思います。

 山形の6月はサクランボ一色といってもいいでしょう。
3年余りにわたる新型コロナの規制解除が後押ししたのでしょうか、サクランボ目当ての観光客数が半端でないような気がします。
山形盆地の大動脈である国道13号は車の数がぐっと増え渋滞が激しくなっています。
以前ならあまり見かけなかった西日本、さらには四国や九州ナンバーの車もさほど珍しくありません。
厳しさを強いられてきた観光関係者にとっては大歓迎ではないでしょうか。
(2023/06/30 辻蕎麦便り)

2023年 5月~6月号 辻蕎麦便り

 皐月。
「1日の気温格差が大きいので体調管理に気を付けてください」。
テレビやラジオの天気予報の中で、気象予報士が呼び掛けるこうした内容の注意を耳にすることが実に多くなりました。

5月といえば1年の中でもっとも穏やかで過ごしやすい季節と思っています。
いや正確に言えば「思っていました」かな。
「風薫る五月」がキャッチフレーズになるくらい爽やかなはずなのに、ここ北国の山形で「明日は猛暑日に…」などという予報が流れてくるのですから。
「爽やか」と「猛暑日」はどう考えてもそぐわないでしょう。
実際は最高気温が34.6℃で、猛暑日まではあと一歩及びませんでしたが、それにしてもどう考えたって5月の気温ではありません。
おまけに最低、最高の気温差が20℃以上という日も結構あり、たった24時間の間に早春から真夏までへの急変にどう対応すれば良いのさ、とぼやきたくなります。
体調維持も容易でありません。

そんな暑い1日、高台から山形盆地を眺めたくなり林道まがいの道をドライブしてきました。
山形盆地は南北に約40㌔、東西に10㌔~20㌔あり、田園が広がるなかに街や集落が点在しています。
5月の盆地の光景は、伝説の「藻が湖」に一番近いのではないでしょうか。
田植えの準備のために一斉に水を張られて果てしなく広がる水田はまるで湖のよう。
大昔(何年前とは問わないでください)、最上川は村山市の碁点で堰き止められており、盆地が巨大な湖だったといわれています。
その名残りが地名として伝えられ、東側の際が東根、現在の東根市、西の際が西根、現在の寒河江市西根だというのです。
今ではちょっと場所を思い出せませんが、東根市の山裾には、「荷渡し地蔵」といったお地蔵さんがありました。

科学的には地殻変動によって村山市碁点の堰き止めが解消され、最上川となって水が流れ出し、山形盆地を形成したようです。
人々が住む以前の事象なのでしょうが、湖は一気に消滅したのではなく、徐々に狭まっていき人間が生活を始めたころにも残っていたのでは。純白に輝く周囲の高い山並みに囲まれ、青空を映し出す広大な水田をぼんやり見ていると、古代の人々が木船を力強く漕いで行き来する姿が浮かんできます。
どんな風が彼らの頬を撫でていたのでしょうね。
もっとも「現代の湖」もめっきり減って、新たな白い波を湧き立たせています。
サクランボやリンゴなどの花で、桃などのピンクも混じり咲き誇るさまは桃源郷を彷彿させています。
湖が狭まって、桃源郷が広がるのは目の保養には良いのですが。
その裏にはいろいろな事情があるのでしょうね。

(2023/05/30)