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2016年12月 辻蕎麦便り

師走。
「今朝、東京で初雪が観測されました。11月に観測されるのは54年ぶりのことです」。
11月24日、テレビやラジオ、インターネットのお天気関連サイトなどで一斉にこのニュースが流れました。
「えっ、東京に雪。本当に」。
気温は低いものの強い日差しを浴び小春日和の山形で、なんか不思議な光景に接するような感覚でテレビに見入っていました。
周囲が真っ白な中で、このニュースなら「東京も雪なんだ」で済みますが、どこをながめても晩秋そのものだったのですから。

時ならぬ雪で、気象予報士たちがさまざまな解説をしておりました。
その中で強く印象に残ったのは、54年ぶりに東京に雪をもたらした今回のような気圧配置は「38豪雪」の冬に酷似しているということです。
日本海側各地に通常では考えられないような豪雪をもたらした昭和38年の冬。
山形県内でも山間部の集落などが長期間にわたって孤立してしまいました。
ある町にはヘリコプターで救援物資を運んだほどです。
道路などのインフラや除排雪の機器類の機能、技術力は当時とは比較にならないほど向上しています。
それでも降り過ぎれば、対応に苦慮するのは必至でしょう。
普段、屋根の雪下ろしなどをしたことがない平野部がドカ雪に見舞われたらなどと考えるとぞっとします。
とにかく平穏な冬であってほしいと願っております。

12月の半ばになり、山形も一瞬にして白一色に染め上げられました。
きのうまでみずみずしさをアピールしていた畑の野菜も、今はどこに何があるのといった感じです。
しかしこの雪が野菜にさらなるおいしさを加えてくれます。
雪をかぶった野菜は甘くなるといった話を聞いたことがありませんか。
野菜には寒さから身を守る防御機能が備わっているのです。
野菜の細胞は氷点下になると水が凍り、体積が1割ほど増えて壊れてしまいます。
そこで気温がぐっと下がってくると、野菜は凍りにくくするために細胞内のデンプンを糖に変え、糖濃度を高めるということです。
雪の中から掘り起こした野菜で作った鍋物を突っつき、温まった体でシメの蕎麦をたぐる姿を想像してみてください。
蕎麦がいつもより数段美味しく感じられるのは間違いないでしょう。

かぐわしい蕎麦の香りが部屋いっぱいに広がった辻蕎麦の工房では、連日、年越し用の蕎麦打ちに追われています。
皆様が笑顔で召し上がっている光景を思い浮かべながら、より美味しい蕎麦をお届けできるようにと気合を込めてやっております。

2016年10月 辻蕎麦便り

神無月。

 「実りの秋」という言葉が目の前に限りなく広がっています。
黄金の海では大型機械がスイスイと動き回り刈り入れに余念がありません。
山形県は柑橘類を除いて何でもとれるというフルーツ王国。
それに山の幸も加わり、あちこちの産直施設をのぞくと地元の果物や野菜、キノコ類であふれています。
 
もっとも店内は品物があふれているだけでなく、近県から駆け付けた買い物客などであふれかえり、土日祝日などは大都市の通勤時のような混雑ぶり。
“爆買い”も中国人の専売特許ではありません。
リンゴやブドウ、柿などを親戚、友人知人に送るため1人で5箱、10箱と買って、せっせと宅配伝票に記入しています。
家族連れならこの量がさらに増します。
幾段にも積み重なった段ボール箱が瞬く間に低くなっていく。
すごいエネルギーと迫力です。
いつの間にかこうした光景が山形の秋の風物詩になってしまいました。

 ブドウといえば、山形県内には12のワイナリーがあります。
地元産のブドウを原料にしているのが特長で、品質も高く、日本で開かれるサミットのパーティーで使われるほどです。
各種コンテストなどでも結構活躍していますが、知名度がなかなかアップしないのが残念です。
ワインを1.8ℓのガラス容器に詰めたいわゆる“一升瓶ワイン”。
各ワイナリーでこぞって造っていましたが、近年徐々に姿を消しつつあります。
“一升瓶ワイン”は値段が安く、ファンは結構多いのにと不思議に思っていましたが、先日謎が解けました。
ワインを中心に扱っている酒屋さんで雑談していたら、「デラウエアの争奪戦がおきているのを知ってる?行政が付加価値の高いブドウ作りを指導しているので、農家は値段の安いデラウエアをやめてシャインマスカットなど高級品種にどんどん転換しているの・・原料のデラウエアを確保できないワイナリーは“一升瓶ワイン”造りから撤退せざるを得ないんだって」・・と。
なるほどそういうことか。
理由は分かったが、安く美味しいワインが次々と姿を消すのはなんとも侘しいし、釈然としない。

当然のことながら新蕎麦の季節でもあります。
今年は北海道が台風によって大きな被害が出て、これがどう影響してくるか心配なところでもあります。
収量の減少は否めませんが、作柄は平年並みのようです。
新蕎麦といえばその色と香りでしょう。
薄緑色がかった蕎麦粉は、まるで赤ちゃんの柔肌に触れているようです。
時間を経た蕎麦粉とは感触が全く違います。
それに粉をかき混ぜているときの馥郁たる香り。
これはお客様には申し訳ないが、打ち手の特権でしょう。
蕎麦の香りだけは、打ち手は鼻で、お客さんは噛みしめた後に口腔から感じていただくしかありません。

これからお届けするのはすべて新蕎麦です。
それぞれの蕎麦粉の良さを最大限引き出すよう懸命に努めておりますので、存分に味と香りをお楽しみください。

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