「辻蕎麦便り」タグアーカイブ

2024年 7月~8月号 辻蕎麦便り

「ゴー」。なにやら流れるような音で目が覚めました。
かなり強い降りの雨音ですが、しっかり覚醒したら若干低くなっています。
半ば夢の中だったのでしょうか。
26日0時過ぎで、眠りについてさほどたっていません。
昨日は朝からテレビやラジオが「山形県に大雨特別警報」と繰り返していました。
家の前の道路が川と化しているのではと不安になり、玄関を出て辺りを見回しましたが大きな水溜りが街灯に照らされているだけでした。

一夜明け、庄内や最上地域の惨状に唖然とします。
酒田では午前9時30分ころまでの1時間の降水量が観測史上最大の86㍉に達したとか。
50㍉くらいで傘は役に立たなくなり、降りしきる雨で前方が見えにくくなると聞いた記憶があります。
80㍉超ではほとんど滝状態で、恐怖感が募ったのではないでしょうか。
交通網は寸断され、各地で集落全体がすっぽり水没している様子がテレビや新聞で報じられています。
山形県内でこれほど広範囲に大規模な災害が発生するとは。
長い間自然災害の少ない県だといわれてきたのですが。
被災された方々が1日も早く以前の平穏な日常生活に戻ることできるよう願ってやみません。
心よりお見舞い申し上げます。

「山形県で記録的大雨被害」のニュースを目にした県外の友人から安否確認の電話が次々に入りました。
その中で、九州に住む一人が「大雨による被害というのは、九州や四国、中国が多いと思っていたが、近年は北国でも結構発生しているね。やはり温暖化の影響かな」と語っていました。
それも大きな要因ではないでしょうか。

山形市周辺では5月、6月にまとまった雨がほとんど降らず、畑の野菜たちは頭を垂れうなだれた日々を過ごしました。
わが菜園でもニンニクとタマネギの収穫を終えたあとを耕したらほぼ土漠状態でした。
そんな中で、これぞ水不足のなせる業ではという現象が。
例年なら黒マルチの穴からまるまると太った姿を見せる時期なのに、一向に成長しません。
不思議に思い数本試しに抜いてみたら、ゴボウを一回り太くしたようなダイコンが現れたのです。
ちょっと見にはダイコンというより新品種の根菜類のよう。
擦り下ろして口にした瞬間、完全に水不足が原因と断定できるような味でした。
もっとも辛みがいつもより強く、おろし蕎麦用にはぴったりでしたが。

それが7月に入った途端、多少は別にしてほぼ連日の雨模様。
梅雨の季節だから当たり前なのかもしれませんが、畑は土漠から一転水浸しで、作業はままなりません。
秋冬物の野菜の種蒔きなどをしなければならない時期なのに。
近年の天気の神様はほどほどということを知らないのでしょうか。

(2024/07/31 辻蕎麦HP)

2024年 6月~7月号 辻蕎麦便り

数ある全国のJA産直施設で売上高トップクラスを誇る東根市の「よってけポポラ」。
主力商品はいうまでもなくサクランボ。
シーズンになると、施設の前に宅配会社の受付専用プレハブが建つくらいですから、販売されるのもすごい量です。
ずらりとならんだサクランボの化粧箱やパックの中から品定めして次々に買い物かごへ入れレジに向かう、これがいつもの光景です。
ところが今年は。

首都圏の知人に季節のあいさつ代わりに送ろうと、平日の11時近くに訪れました。
数百台は収容可能な駐車場がほぼ満杯。
しかも車のナンバーが仙台、宮城を中心に秋田、新潟、首都圏、さらには高知、広島など西日本のものも。
山形ナンバーは10台に1台もありません。
いやな予感が膨らみました。
例年ならこの時間でも、生産者が次々と搬入してくるので品選びにさほど苦労しないのですが、肝心のサクランボがほとんど見当たりません。
空っぽになった販売台の周囲を多くの人が右往左往しているだけ。
時折生産者がサクランボの箱を抱えてやってきますが、売り場に姿を現した瞬間に争奪戦が。
「販売台の上に置いてから手にするように」と再三場内アナウンスが響きます。
この日はあきらめ数日後に再チャレンジ。
9時開店なので、8時30分ころに行きましたが、既に100人近くが行列を作っていました。
まさかここでサクランボを求めるのに開店前から並ぶことになるとは。
列の前後の人たちの話が耳に入ってきます。
「きのうは9時30分に来たけど、もう空っぽだった」「この前の日曜日は300人以上が並んで、場内は身動きがとれなかったって」。
周囲を果樹畑で取り囲まれ、サクランボシーズン以外は比較的静かな施設の前で交わされている会話とは思えません。
何とか目的は果たしましたが、値段の高いのにはびっくり。
1㌔箱で8千円、1万円で驚いていたら、その隣は1万8千円だって。
それでも買い物かごに入るんですよね。

実は行列を作る施設の周囲に、今年は品薄で販売も早めに終了するというお知らせの立て札が立っていました。
昨年夏の高温が原因の双子果の発生に加え、5月、6月の高温続きで、サクランボの熟度が一気に進みました。
そのスピードに収穫が追い付かず、うるんでしまい廃棄せざるを得なくなったということです。
この1年間懸命に手を掛けてきた生産者の心情を思うとやりきれません。

国の地理的表示保護制度に登録されている地域ブランド「東根さくらんぼ」の品評会で最高賞を受賞した1㌔詰サクランボが豊洲市場で145万円の過去最高額がついたり、県が開発した大玉のサクランボ紅王が太田市場で1個10万円で落札されたりと、びっくりするようなニュースも相次ぎました。
一体どんな人の口に入るんでしょうね。
それはともかく、一般消費者が手ごろな値段で季節の味を楽しめる機会が失われるようなことだけは勘弁してほしいものです。

(2024/06/30 辻蕎麦HP)