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2022年 7月~8月号 辻蕎麦便り

真っ青な空に湧き立つ入道雲を見ていると、なぜか半世紀以上も前の小学生時代の夏休みの一コマが浮かんできます。
雪国の夏休みは首都圏などに比べはるかに短い、その分冬休みが長いようですが、当時は今よりもさらに短かった気がします。
より待ち遠しかったのではないでしょうか。

夏休みになると、地区の子供会で恒例の「芋煮会」に出掛けるのです。
いまや「山形の芋煮会」といえば、テレビの全国放送や新聞に取り上げられたりして名をはせていますが、この芋煮会が行われるのは秋です。
事情を知っておられる方なら、「夏休みに芋煮会?」と疑問に思われるかもしれません。
そうです、材料が全く違うのです。
「山形の芋煮会」の材料はサトイモ、牛肉、ネギ、コンニャクが基本。醤油と砂糖、日本酒などで味付けします。
「夏休みの芋煮会」の材料といえば、ジャガイモ、タマネギ、インゲン、ナス、それに塩クジラ。塩クジラを使っているのに、なぜか「イルカ汁」と呼んでいました。
いわゆる夏野菜のオンパレード。
農村部の子供たちは収穫して間もない野菜と調味料、鍋、薪を積んだリヤカーを引き、集落から2、30分かけて最上川の支流の河川敷まで歩いて出掛け、河原で調理して楽しんだのです。
暑い夏に、熱い醤油味の芋煮を汗だくになりながら頬張る。
合間には当然のことながら水遊び。
びしょ濡れになりながら水をかけっこしたり、中には魚を捕まえてさっそく塩焼きにして食いつく友達も。
お裾分けの一口が実に美味しかったですね。

いつころからこういう行事が始まり、いつころ消滅したのか、またどの程度の範囲の地域でやっていたのか、全く分かりません。
7月下旬の青空をみるとふと思い出すのです。
記憶の中に、大人の顔は全くありません。
子供だけでやっていたのですかね。
当時はどんな思いで食べていたのか。
ただ味は年齢とともに「美化」されるのか、やたら美味しかったことだけがこみあげてきます。

新型コロナウイルスの感染が急拡大し、連日過去最多を更新しています。
世界保健機構(WHO)が7月24日付で集計した1週間の新規感染者数は前の週に比べて73%増え約97万人で、世界最多となりました。
6月に入りほぼ尻すぼみ状態で推移し、ひょっとするとこのまま終息するのではないかなどと思ったのは大甘でした。
爆発という表現がぴったりの急拡大で、この先、本当にどうなるのでしょうね。

その一方で、いわゆる「日常」が徐々に戻りつつあります。
山形市内では、真夏の夜を彩る東北四大祭りのひとつ「花笠まつり」の飾りつけが終わり、8月5、6、7日に行われる3年ぶりのパレードを待つばかりです。
規模を縮小し、掛け声などもなしで、と雰囲気的にはちょっと盛り上がりに欠けそうですが、まずは第一歩でしょう。
こうしたことをきっかけにそのほかのことも動き出し、1日も早く元の生活に戻れるように願っております。
(2022/07/30)

2021年8月~9月 辻蕎麦便り

先月、白いベニバナを見て驚いた話を紹介しましたが、この夏はもうひとつ「お初にお目にかかります」がありました。

「コリンキー」。
これなに、と思われるかもしれませんが、野菜の名前なのです。
5月下旬にわがささやかな菜園に植える野菜の苗を求めて、ホームセンターなどを回っていた時に、ある店で苗の入ったポットが1個だけ売れ残ったようにぽつんと置かれていました。
時期的に苗販売のシーズンは最終盤で、大方のお店はコーナーを縮小するか撤収し始めています。
名前を見たら「コリンキー」。
連れ合いが「一度植えてみようよ」というので、何が何だか分からずにとりあえず「うん」。
葉がカボチャと似ているので、調べもせずにカボチャの脇に同じようなやり方で定植しました。

カボチャは暑くなり、花が咲くまで放置するのが常だったので、しばらくは他の野菜の定植作業や草取りなどに追われて目を向けることもありませんでした。
7月上旬、何気なくカボチャの様子をみたら、その一角にレモン色の小玉スイカ大のものが。
正直、「コリンキー」を植えたことすら忘れていたので、ちょっとびっくり。
そういえば、一本だけ何やらよく分からないままに植えたのがあった。
確か「コリンキー」。
慌てネットで調べたら、唯一生で食べられるカボチャの仲間。
しかも20年ほど前に大手種苗グループの山形県の会社が海外品種と国内品種を掛け合わせて作ったようで、農林水産省に品種登録されています。

野菜でも果物でも普通は熟してから収穫しますが、「コリンキー」は早採りがお薦め。
最初はレモン色をしていますが、熟すと赤みが差し始め、次第に濃いオレンジ色に変わっていきます。
サラダや浅漬け、スムージーなどで味わっていますが、こりこりした歯触りは実に心地よい。
匂いはなく、味も爽やかで癖がなくちびっ子たちにも好評です。

親蔓から子蔓、そして孫蔓へと旺盛に伸び、そこそこのスペースが埋め尽くされ足の踏み場もないほど。
特段の世話もしないのに花が次々と咲いては実を結び、大きくなっていく。
これがたった1本の苗から始まったとは。
お盆前後に気温が急降下した時は成長が鈍ったようですが、その後は再び実を付けて成長。
知人、友人にお裾分けする日々が続きました。
山形に生まれて20年ほどの野菜ですが、知らなかったのは自分だけでなく、知人、友人も「そういえば名前を聞いたことがある」程度で、ほとんどは初めてお目にかかったようです。
こんなこともあるんですね。

ソバ畑では白いうねりが果てしなく広がるようになりました。
香り豊かな新そばの季節が間近です。
楽しみにお待ちください。
(2021/08/29)