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2023年 8月~9月号 辻蕎麦便り

葉月。

 「えっ、そんなことあるの」。山形県の中央部にそびえる標高1984㍍の霊峰月山。真夏でも年によっては雪渓で涼を楽しめるほどのわが国でも有数の豪雪地です。山腹の雪が解けて地表から浸み込み、時を経て湧き出す水が多くの山形県民の生活を支えています。その山頂にある月山神社本宮と山頂山小屋が水不足に陥り、活動に支障を来たしているというのです。

 28日に掲載された山形新聞の記事によりますと、神社と山小屋は雨水を濾過して炊事やトイレ用水を確保していますが、この夏の猛暑と少ない降水量のために水不足で通常営業が出来なくなりました。神社も職員の人数をぎりぎりまで減らして対応しています。7月1日の山開き直後は悪天候だったものの、その後は快晴続きで次第に水が不足してきました。ヘリコプターで運ぼうとしても、燃料費の高騰で難しく、山小屋では予約客を断ったり、神社では本宮の職員を最低限まで減らしています。山小屋は今年で78周年になりますが、こんな事態は初めてだということです。

 山形市街地から見ていますと、今月に入り月山は雲に覆われている日々が続き、山容に接することは少なかった気がします。そんな中で、まさか水不足に見舞われているとは、全く想像できませんでした。月山には何度も足を運び愛着のある山だけに、雲の向こうの異変に心配が募ります。

 異変は山の上だけでなく、わがささやかな菜園でも。猛暑日続きで1日の平均気温が27~30℃とあっては、人もおかしくなりますが、野菜もただでは済みません。枝豆を収穫して湯がいたところ、莢は膨らんで見えたのに“豆”がないのです。まさかお湯の中で、豆が溶けてしまったのでは。狐につままれたとは、こんな感じですかね。例年と違った栽培をしたわけでもないし、と首をひねっていたら、「猛暑の影響で枝豆農家に打撃」のニュースが。少雨と高温で生育不良になったようです。庄内地方は有名な「だだちゃ豆」の特産地。専業農家は大変ですよね。

 この気候は秋冬物野菜の播種にも大打撃を与えています。ニンジンの種を例年通り黒マルチの穴に蒔きましたが、発芽期間をはるかに過ぎても全く音信不通。一緒に蒔いたビーツも2本の発芽を確認しただけです。ニンジンの発芽に畑地の湿りは欠かせないので、炎天下、晴れ渡る空を恨めし気にながめながらせっせとバケツで水を運びましたが、徒労に終わりました。黒マルチで地中の温度が上がり過ぎ種がおかしくなったのでしょう。播種の適期を過ぎてから黒マルチなしで蒔き直し、ようやく少しずつ芽がでてきていますが、降雪期の前までに果たしてどこまで大きくなるやら。

 このほかにも、柿の実が次々と落下したり、カボチャの着果数が極端に少ない上に大きくならなかったりなど影響は広範囲に。いずれも初めて経験することなので、「?」マークが頭の中を駆け巡ります。最終的には、枝豆同様テレビのニュースでこれらのことに専業農家が困っている様子を見て、やはりそうだったのかとうなずく次第です。

 この猛暑、少雨が地球温暖化による異常気象がもたらしているものか、それとも今年だけのものか分かりません。いずれにせよ、これまでのやり方が通用しなくなってきているのを痛感させられる夏でした。(2023/08/30)

2023年 7月~8月号 辻蕎麦便り

文月。

連日のように流れてくる熱中症警戒アラート。
気象庁のアラート発表状況の日本地図は北海道などを除き、ほとんどが真っ赤に塗られています。
これを見ているだけで、暑さのあまり頭がぼーっとしてきそうです。
地球温暖化という言葉を目にする以前は、「命に危険を及ぼす暑さ」などというのは日本では無縁だったのではないでしょうか。

わが国の最高気温は2007年に更新されるまで74年間にわたり40.8℃でした。
1933年(昭和8年)7月25日に山形市で観測されたものです。
フェーン現象がもたらしたものでしたが、それを経験した祖父母から、命が危うかったなどという話を聞いた記憶がありません。
やたら暑かったのは覚えていたようですが。
同じようにフェーン現象により1978年(昭和53年)8月3日に酒田市で40.1℃を記録した時は、たまたま同市内にいました。
空気が本当に“熱い”んです。
呼吸するたびにそれを感じるのですから。
一緒にいた友人の1人が「蝉があまりの暑さで木から落ちているらしい」と真面目な顔で話していたが、実際はそんなことはありませんでした。一瞬、この暑さならホントかもと思いかけましたけど。
同時に「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる」(吉田兼好「徒然草」)という一文が浮かんできて、寒ければ何かを着込めば良いが、暑過ぎるのは裸でもしのげないなどと、とりとめもないことを考えていました。

今月上旬、ちょっと気になるニュースを目にしました。
東北森林管理局が毎年、ブナの結実を左右する開花状況の調査を行っています。
ブナの実はクマの主要な食料ですが、調査の結果、山形県をはじめ東北各県は「大凶作」になる可能性が極めて高いということです。

クマは人家近くどころか市街地まで下りてきて、目撃されることが年々多くなり、被害も拡大しています。
今月上旬までは、連日のように目撃情報が報道されていました。
この暑さでさすがのクマも動きたくなくなったのか、熱中症警戒アラートとともに姿を消しています。
人間よりはるかに自然の動きを察知する能力は高いのかもしれません。
しかしこの暑さが去り、実りの秋を迎えるころにクマたちの行動はどうなるのか。
山に餌が無ければ里に下りてくるしかなくなるでしょう。

ささやかなわが菜園の端にちょっとした柿の木があり、格好の緑陰を提供してくれます。
一歩出ると突き刺すような暑さが襲ってきますが、樹下にイスを持ち出して涼んでいると、周囲の稲穂や野菜の間を潜り抜けてきた緑の風が柔らかく肌をなでて去っていきます。
これが実に爽やかで、冷房の冷気とは全く違います。
自然が作り出してくれる贅沢な空間に身を置きながら、この秋の人とクマの関わり合いを懸念しています。
何事もなければ良いんですが。

(2023/07/31 辻蕎麦便り)