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2018年1月~2月 辻蕎麦便り

睦月。

明けましておめでとうございます。
 山形や天童では雲の間から初日の出が拝める穏やかな年明けでした。
このままそっと春を迎えられたらいいのになぁ、といった願いはやはり叶いませんでした。
今週になって記録的な強さの寒気団が日本列島に居座り、列島全体が冷凍庫状態に。東京23区でも20㌢超の積雪で大混乱したようです。
ただ、数日で消えてしまう東京と違い、雪国の雪との戦いはロングランです。

 「北越雪譜」という280年ほど前に出版された本があります。
著者は今の新潟県南魚沼市の鈴木牧之という人で、雪国の生活を詳細に紹介したものです。
この中に除排雪の話が出てきます。
積もり過ぎると家屋が押しつぶされたり、そこまでいかなくとも家への出入りができなくなるので、家族総出で、それでも足りなければ助っ人を頼んで除排雪するのです。
ところが、せっかくきれいにしても、一夜明けたら前日と同じくらいに積もっていてがっくりする様子が描かれています。
ここ数日の山形はまさにそんな感じで、当時の人々の気持ちが良く分かります。
積雪量は家屋に影響を及ぼすところまではいきませんが、車の出し入れに支障をきたすので、1日に2、3回汗を流すことも。
間断なくよく降るものだと天を見上げて嘆息するしかありません。

 気温が低いと雪はパウダー状になります。
これが降り積もり、風が強まると怖いのが地吹雪。
地面から粉雪が隙間なく舞い上げられ、完全に白一色の世界に。
数年前、首都圏の友人夫婦と天童から北へ30㌔ほどのところを車で移動中、猛烈な地吹雪に襲われました。
一瞬にして車の窓すべてに真っ白い紙をべたっと貼られたような感じに。
友人夫婦の表情はたちまちこわばり、言葉もでません。
その怖さは体験した人でないと分からないでしょう。
「帰ってから周囲に話したが、いくら説明しても理解してもらえなかった。怖かったけど、得難い経験をした」と友人夫婦は語っております。

 昨年1月にも取り上げましたが、今年もサクランボが今月4日に初出荷されました。
翌日に東京・大田市場などで競りが行われ、1箱(500㌘)で30万円の値がつきました。
前年に比べて一気に50%もアップ。景気がいいんですかね。
1箱に68粒入っているということで、1粒なんと4400円。
こんなサクランボはどんな人たちの口になどという野暮なことをいうつもりはありませんが、それにしても…。

 辻蕎麦の作り手一同寒さや雪にめげることなく、より美味しい蕎麦をお届けしようと気持ちを新たにしております。

今年も宜しくお願い申し上げます。

2017年10月~11月 辻蕎麦便り

神無月。
「錦秋の候」という言葉がぴったりの季節ですが、今年に限って言えば、それはどこの世界の話といった感じです。
「秋晴れ」とか「秋天」などと表現できる爽やかな天候はいったい何日あっただろうか。
朝に晴れていても、昼過ぎには厚い雲が覆ったり、ややもするとぽつりぽつりと歓迎しないものが落ちてきたりと、とにかく1日中澄み切った青空という記憶がほとんどありません。
もっともこれは山形だけのことではないようですが、さすがに鬱陶しくなってきます。

 自然の中にも“異変”が。
ささやかな菜園でキャベツなどを育てていますが、昨年までは追っても追っても飛び交う蝶に悩まされてきました。
なんせ葉の裏に産み付けられた卵が青虫になり、ようやく大きくなりかけている葉を次から次と食い荒らすのですから。
菜園を手掛ける前までは、「おっ、蝶が舞っている」などと優雅な光景に映ったのですが、いまや憎っくき仇でしかありません。
その憎っくき仇の姿がこの秋はほとんど見かけないのです。
本当は嬉しいはずなのですが、あまりに少ないと何か異変が起きているのではないかと心配になるほどです。
どうなっているんでしょうね。

 窓越しに冷たい雨がそぼ降るのを眺めていて、「えっ、何これ」と一瞬わが目を疑いました。
4月末に園芸店でグリーンカーテンに最適という謳い文句に惹かれ、うかつにも栽培知識ゼロながらパッションフルーツの苗2本を購入。
大型のプランターに肥料をどっさりやって植え、2階の窓との間にネットを渡しました。

 その後、これは熱帯だか亜熱帯の植物で、果たして雪国山形で育つのか。
ハウスなどもないし冬はどうするの。
しかも簡単に受粉しないし、受粉しても熟して食べられるようになるのは容易でないことも分かりました。
どうしてこんなものに手を出したのかと後悔しましたが、いろいろ考えても仕方がない。
最後は、グリーンカーテンをひと夏楽しめばいいではないかと割り切りました。
やはり花は咲けども受粉せず。
それでも2階まで葉を繁らせグリーンカーテンとしては立派に役目を果たしてくれました。
秋になり気温が下がり始めたころに再び花が咲き始め、ある日、蔓の途中に直径5㌢ほどの艶やかな緑の球形が下がっているのが目に入りました。
その1個が1カ月ほどぶら下がったままだったのが、なんと最低気温がひとケタになった今月中旬に2個目が誕生していたのです。
熱い地方の果物が気温ひとケタの中で実っているというのが全くピンときません。
そろそろ蔓を切り詰め、小さな鉢に植え替えて家の中に入れなければと思っていたのに。
しかし冷たい雨の中で揺れる小さな緑の球形を目にするといじらしくなり、なかなか蔓をばっさりという気になれません。
日一日と気温は下がっているのですが。

 今年も新蕎麦本番の季節を迎えました。
辻蕎麦の工房には、蕎麦粉をかき混ぜるときの馥郁たる香りが漂っています。
お客様には申し訳ありませんが蕎麦の香りだけは、打ち手は鼻で、お客さんは噛みしめた後に口腔から感じていただくしかありません。
それぞれの蕎麦粉の良さを最大限引き出すよう懸命に努めておりますので、存分に味と香りをお楽しみください。