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2024年 9月~10月号 辻蕎麦便り

「風流だね。スズムシでも飼っているの」。
首都圏に住む友人と電話している最中、急に話の流れと関係ない話題に。
「家の中には虫籠もなければ、スズムシも飼っていないよ。そうか、この鳴き声?庭の虫たちだよ」。

住宅街のど真ん中にあるわが家ですが、近年、猫の額よりはるかに狭い庭でスズムシやコオロギなどが毎晩のように大合唱を繰り広げております。
以前はそれこそはかなげな音色で、涼風と共に秋の訪れを告げる風情ある便りでした。
しかしここ2、3年、合唱隊が大増員を図っているのか、家の中にいても耳元で鳴いているではないかと勘違いするくらいの大音響になってきました。
電話越しにその音色が届いても不思議でありません。
虫の音と無縁の大都会に住んでいるせいか、さぞ羨ましかったのでしょう。
「毎晩、コオロギやスズムシの鳴き声をバックに一杯やれるなって、いいな」と同じような内容の話を繰り返していました。

「ほかにどんな虫がいるの、姿は見ているの」などと突っ込まれても、門外漢の悲しさで、説明できる材料を持ち合わせておりません。
なぜ毎晩のように大合唱を繰り広げるようになったのか、さすがに気になり、インターネットを覗いてみました。
どうやら近年の気候が関係しているのではないかということです。
きちんとしたことは分かりませんが、様々な虫たちが大量発生しているのは事実です。

山形の秋の風物詩「芋煮会」が各地で繰り広げられています。
その主役のサトイモに関する珍しいニュースが地元の新聞に掲載されておりました。
県内の農家が栽培したサトイモで花が咲いたというのです。
毎年、サトイモを手掛けていますが、花を見た記憶は全くありません。
サトイモは東南アジアのマレーシア周辺が原産地の熱帯植物。高温、多雨、多湿、日照などさまざまな条件がそろわないと花をつけないようです。
写真で見るサトイモの花は水芭蕉の花によく似ていました。
日本でお目にかかるのはかなり難しいとか、それが北国山形で咲いたのですからすごいですね。
山形は温帯でなく、熱帯モンスーン気候になってしまったのかな。

わが菜園ではことしもサトイモを植えました。
7月くらいまでは順調に育っていたのですが、8月に入ると片端から茎が倒れて80%くらいがダメになりました。
最初はネズミの仕業かと思いましたが、根元に潜り込んだ穴が見つかりません。
どうやらネキリムシの一種にやられたようです。
猛暑で大量発生したのでしょうか。
楽しみにしていた芋煮ですが、残念ながら口惜しさと腹立たしさが入り混じった味になりそうです。
同じ熱帯山形でも、害虫の大量発生でなくサトイモの花なら大歓迎なのに。

(辻蕎麦HP 2024/09/30)

2024年 8月~9月号 辻蕎麦便り

「夕立」「通り雨」。真夏の雨をながめていると、この2つの言葉が訳もなく浮かんできます。
地球温暖化などといった言葉のないころのことですが、夏の日の午後、真っ青な空に入道雲が湧き立ち、遠くから鋭い光の後を追うように雷鳴が。
それが次第に近くなり、同時に黒雲が現れ、ぽつぽつと落ち始めたと思う間もなくジョウロを傾けたような雨に。
ほどなくして止んだ後は、どこかひんやりして涼感を漂わしてくれました。
クーラーなど無かった時代。
ほてった肌を冷やしてくれたあの雨上がりは忘れられません。
懐かしさからかもしれませんが、同じ雨ながら情緒があったような気がします。

それに比べ昨今の雨はなんなんでしょうね。
ジョウロどころかバケツの水をそのまま空け、「ゴー」という音が聞こえてくるような感じです。
熱帯雨林に短時間思い切り降り注ぎ、地表を一気に水浸しにする「スコール」そのもの。
菜園の雑草取りを中断させられ、作業小屋の軒下で水のカーテン越しに広がる光景をぼんやり見ていると、まるでジャングルの中に身を置いているような錯覚を覚えます。
周囲の樹木がバナナやヤシの木のような気がしてきたりして。
それに雨が上がった後も、吹いてくる風がなぜか生暖かい。
日本の夏はすっかり様変わりしたんですね。
連日のように熱中症警戒アラートが発表され、全国のあちこちで線状降水帯が発生し、水害被害が続出しています。
山形県内でも7月末に庄内と最上地方が記録的大雨により、大きな被害が発生しました。
住宅の全半壊や道路の損壊、農用地への土砂流入など山形県のまとめによりますと現段階での被害総額は889億円に上るということです。
こうしたことが全国各地で起きているわけですから本当に大変です。

先月下旬だったか今月上旬か定かでありませんが、首都圏の友人が「スーパーなどでお米が消えかけている」と不満げに話したときは「えっ、本当」と思わず耳を疑いました。
昨年は高温障害でお米が白濁し品質が下がりましたが、いくら端境期といえまさか品薄になり、値上がりまでしているとは。
要因はいろいろあるようですが、日々頭が垂れ下る稲穂の波がどこまでも広がる光景を見ていると、農協の直売所やスーパーのお米コーナーが空っぽになっている現実が異次元のような気がして仕方がありません。

いずれにしてもほどなく新米がお店のお米コーナーを埋め尽くすでしょうが、気掛かりなのが台風10号。
数十年に1度の強さといわれる台風が鹿児島から上陸し、日本列島をじっくり時間をかけて縦断しそうという。
冗談じゃない、収穫目前のこんな時期に全国をなめるようにして北上するとは。
一刻も早く消滅して欲しいのですが。

(2024/08/31 辻蕎麦HP)