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2015年10月 辻蕎麦便り

神無月。

 2000メートル級の高山からは初冠雪の便りが届くようになりました。
いずこも例年より早そうです。
紅葉前線が高い頂きから足早に降りて来る日も近いことでしょう。

 この時期の山形はキノコのシーズンでもあります。
キノコというと、首都圏のスーパーや青果物店の店頭に並んでいるのは、量は多いのですが種類があまりにも少ない。
よく見かけるのはマツタケ、ナメコ、シメジ、シイタケ、エリンギ、マイタケ、エノキタケ。
こんなところでしょうか。

 しかし山形ではブナハリタケ、トビタケ、クリタケ、ヤマブシタケ、アミタケなどこのほかにもたくさんあります。
初めて目にする名前も多いのではないでしょうか。
ことしは8月下旬から雨続きだったこともあり、どうやらキノコは豊作のようです。
高嶺の花に変わりはありませんが、あのマツタケも昨年に比べて3、4割は安いというニュースを耳にしました。

 マツタケといえば、10数年前、名人級の知人に無理やり頼み込んで松茸狩りに連れていってもらったのを思い出します。
午前4時30分ごろに出発し、松茸山とおぼしきところに着いたのが夜明け寸前の5時30分ごろ。
松茸は毎年ほぼ同じところに生えてくるので、他人に知られたら絶対に荒らされる。
従ってどこにでるかは家族にも教えないとか。
個人所有の松茸山はすべて立ち入り禁止。
それ以外の山の松茸狩りは極めて熾烈な戦いになります。

 足元がようやく見え始めるころには尾根筋にスタンバイ。
明るさが増すと同時に動き始めます。
見当をつけている名人の足運びは速い。
時折り立ち止まり、枯葉を動かしたりして確認。
ただし人影が視野に入った瞬間、全く違う方を向いている。
採った跡は完全に消しながら進んでいく。
たちまち10数本がカゴの中に入っていました。

 自分はこの日ほんとうに偶然に2本見つけることができました。
大感激です。
この夜早速1本は松茸ご飯、もう1本は焼き松茸にしました。
店頭で売っている松茸との最大の違いは香りの強さ。
あの独特の香りが家中に拡がり、どこにいても松茸、松茸、松茸…。
最初で最後の経験ですが忘れることができません。

 森林組合によっては何種類ものキノコを一緒に塩で漬け込んだものをミックスという商品にして販売しています。
これに鶏肉などを入れて作った蕎麦のつけ汁は野趣に富みなかなかなものです。
新蕎麦とともに2つの秋を一度に味わえます。
ぜひお試しになってはいかがでしょうか。

>>辻蕎麦公式ホームページ

2015年9月 辻蕎麦便り

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長月。

「蕎麦はまだ 花でもてなす 山路かな」(松尾芭蕉)。
遠来の客を新蕎麦でもてなそうとしたが、ソバは花真っ盛りで時期が早すぎた。
せめて目で味わい楽しんでほしいとの気持ちを込めたのでしょう。
これは伊賀上野で詠んだ句ですが、9月の山形はまさにこの光景が県内いたるところに広がっています。

 信州、越前、出雲などに比べ知名度はもうひとつの感が否めませんが、山形はなかなかの蕎麦どころなのです。
多分「えっ」と驚かれるかもしれませんが、平成26年度のソバの作付面積は北海道に次いで全国で2番目でした。
農林水産省の統計によりますと、北海道の21,600ヘクタールには遠く及びませんが、山形4,880ヘクタール、長野4,060ヘクタール、福井3,800ヘクタール、福島3,710ヘクタールの順になっています。
山形では休耕田の転作作物として栽培されるようになり急激に増えてきました。
場所によっては広大な面積に植えられており、初秋の風が吹き渡るとゆったりとうねり、まさに白い海原を前にしているような錯覚に陥ります。

 日本でソバの花といえば「白」。
百人に問えば百人からこの答えが帰ってきます。
ところが、ソバの原産地であるヒマラヤ周辺では赤い花で一面を埋め尽くす地域もあるんですね。
30年ほど前に知人から写真を見せられびっくりしました。
赤い花のソバを日本で育てようとしたが、淡いピンクが次第に薄くなり最後は白になってしまう。不思議だな、という話を聞きました。

 気候や土壌の関係で日本では無理なのだろうと思っていたら、信州大学の先生たちがネパールから赤い花のソバの種子を持ち帰り栽培方法を研究。
1日の寒暖の差が20度以上ないと、花は赤くならず退色してしまうことなどを突き止めました。
研究に研究を重ね、赤い花を咲かせるソバを作り出し、「高嶺ルビー」として新品種の登録を行ったということです。

 山形のソバ畑の話をしていてちょっと脇道にそれてしまいました。
県内における栽培面積の拡大につれ、「山形県産そば粉を使っています」を謳い文句にするお蕎麦屋さんが増えてきました。
いまや各地にいくつものそば街道が存在するまでになった蕎麦王国山形にとって“地産地消”は大きな誇りだと思います。
猛暑に悩まされた今年の夏も終わりました。爽やかな本当にいい季節が巡ってきます。
こんな時期に白い大海原を眺めながら、一足早い夏新蕎麦を手繰るなどということをぜひやってみたいものですね。
蕎麦愛好者としては贅沢の極みかもしれませんよ。

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