2019年10月~11月 辻蕎麦便り

神無月。

「山形県と秋田県にまたがる鳥海山できょう初冠雪が観測されました」。
テレビやラジオで28日こんなニュースが流れました。
「えっ、まだだったの」といぶかる気持ちで耳を傾けていたら、平年に比べて18日も遅いということです。
やはりと納得した瞬間、40年ほど前の10月10日を思い出しました。
当時鳥海山の近くに住んでおり、休日だったこの日鳥海登山を計画していたのです。
きれいに晴れ渡った青空の下、早朝から登り始め、7合目にあるカルデラの鳥海湖近くまでたどり着いた時、わが目を疑う光景に出合いました。
一面の草紅葉の上に白い粉砂糖を薄く振りかけたように、雪がふわーっとのっているのです。
口でふっと吹けば、飛んで行くのではないかという感じでした。
雪国生まれの雪国育ちですが、こんなきれいな雪景色は初めてです。
夢の世界に迷い込んだのでは、と思ったのも束の間、歩みを止めた瞬間に汗でびっしょりの体を凄まじい冷気が襲ってきました。
慌てて素っ裸になり下着を取り替えました。
幸いにも周囲に人影は全くありませんでした。

 それにしても18日も初冠雪が遅れるなんて。
これも地球温暖化というか、異常気象の影響なのでしょうか。
異常気象といえば、台風19号。
被災者の皆様には心からお見舞い申し上げます。
実は山形市や天童市などがある山形盆地は自然災害の少ないところで、深刻な台風被害もめったにありません。
ところが今回の台風は、山形盆地の一部で建物損壊や農作物への被害をもたらしました。
ささやかなわが菜園でも野菜の多くが見事になぎ倒されました。
こんなことはあまり記憶にありません。
自家用だし、完全にダメになったわけではありませんが、専業農家の方たちは本当に大変でしょう。

 異常気象といいながらも季節は移ろって、ことしも新そばの時季を迎えました。
ソバの栽培面積が北海道に次いで2位の山形県。
週末にはあちこちで新そば祭りが開かれ、さまざまなイベントを繰り広げ多くの人でにぎわっています。
イベントといえば、県内にはそばにまつわるギネス記録があるのです。
1998年に村山市の「村山蕎麦の会」が、山形そばの代名詞でもある板そばで企画。
長さ約90㍍の板の上に新そばを盛り、約600人が一斉に食べるというものでした。
圧巻だったでしょうね。
そばを打ち、茹でる人たちのことを考えたらその大変さがしのばれますが。
この催しは規模を縮小し、毎年行われているようです。

 わが工房でも、新そば特有の馥郁たる香りに包まれながら、作業に励んでおります。
それぞれの蕎麦粉が持つ特長を最大限引き出し、美味しいお蕎麦をお届けできるよう懸命に努めておりますので、存分に味と香りをお楽しみください。