「蕎麦はまだ 花でもてなす 山路かな」(松尾芭蕉)。
遠来の客を新蕎麦でもてなそうとしたが、ソバは花真っ盛りで時期が早すぎた。
せめて目で味わい楽しんでほしいとの気持ちを込めたのでしょう。
これは伊賀上野で詠んだ句ですが、9月の山形はまさにこの光景が県内いたるところに広がっています。
信州、越前、出雲などに比べ知名度はもうひとつの感が否めませんが、山形はなかなかの蕎麦どころなのです。
多分「えっ」と驚かれるかもしれませんが、平成26年度のソバの作付面積は北海道に次いで全国で2番目でした。
農林水産省の統計によりますと、北海道の21,600ヘクタールには遠く及びませんが、山形4,880ヘクタール、長野4,060ヘクタール、福井3,800ヘクタール、福島3,710ヘクタールの順になっています。
山形では休耕田の転作作物として栽培されるようになり急激に増えてきました。
場所によっては広大な面積に植えられており、初秋の風が吹き渡るとゆったりとうねり、まさに白い海原を前にしているような錯覚に陥ります。
日本でソバの花といえば「白」。
百人に問えば百人からこの答えが帰ってきます。
ところが、ソバの原産地であるヒマラヤ周辺では赤い花で一面を埋め尽くす地域もあるんですね。
30年ほど前に知人から写真を見せられびっくりしました。
赤い花のソバを日本で育てようとしたが、淡いピンクが次第に薄くなり最後は白になってしまう。不思議だな、という話を聞きました。
気候や土壌の関係で日本では無理なのだろうと思っていたら、信州大学の先生たちがネパールから赤い花のソバの種子を持ち帰り栽培方法を研究。
1日の寒暖の差が20度以上ないと、花は赤くならず退色してしまうことなどを突き止めました。
研究に研究を重ね、赤い花を咲かせるソバを作り出し、「高嶺ルビー」として新品種の登録を行ったということです。
山形のソバ畑の話をしていてちょっと脇道にそれてしまいました。
県内における栽培面積の拡大につれ、「山形県産そば粉を使っています」を謳い文句にするお蕎麦屋さんが増えてきました。
いまや各地にいくつものそば街道が存在するまでになった蕎麦王国山形にとって“地産地消”は大きな誇りだと思います。
猛暑に悩まされた今年の夏も終わりました。爽やかな本当にいい季節が巡ってきます。
こんな時期に白い大海原を眺めながら、一足早い夏新蕎麦を手繰るなどということをぜひやってみたいものですね。
蕎麦愛好者としては贅沢の極みかもしれませんよ。