ここ数年、異常気象が思いもよらないことを引き起こすことはわがささやかな菜園でもしばしばありました。
その多くは後で振り返ると、多分あれが、とおぼろげながらも原因にたどりつけました。
しかし、今回の出来事は皆目見当がつきません。
いまだに頭の中は「?」でいっぱいです。
ことしの柿はいつもの年より色づきが早く、月を越して間もなく日々緑色が薄まり赤身を帯びていきました。
わが菜園の柿の木は80年近い樹齢を数える平核無(ひらたねなし)の老木ですが、有難いことにそんなに頑張らなくてもいいよと労わりたいくらいたくさんの実をつけます。
柿は裏作、表作があり、しっかり剪定と摘果をして管理しないと収穫量は年ごとにかなりばらつきが生じます。
昨年も多かったが、ことしもやたら多いので、6月から7月にかけて懸命に摘果作業を行いました。
下のほうは一枝に1個から2個とセオリー通りですが、上の方は葉に覆われていたところを見落としたらしく、あちこちがブドウの房のようになっています。
全体で7、800個くらいはなっているでしょうか。
今月上旬、数日目を離したすきに珍事は起こりました。
徐々に緑色が薄まる仲間をしり目に、音速どころか光速のような猛スピードで熟成している実が10数個あったのです。
例年なら11月中旬ころからでないと目にしない真っ赤に色づき太陽の光を浴びると内側が透けて見えるような樹上完熟柿が生まれていました。
平核無は渋柿ですので、焼酎などによる渋抜きか干し柿にしなければ食べられません。
ところが10数個のうちの1個を鳥が啄んでいたのです。
それを見た柿好きの連れ合いが「鳥が食べるくらいだから、渋くないんじゃない」と止める暇もなくパクリ。
「中はトロトロで渋みは全くない。それに甘みもしっかりあり、収穫し残した樹上完熟柿より上品な味がする」
と満足げな笑顔で2個目に手を伸ばす。
こうなると黙ってみているわけにはいきません。
1個もぎ取り、2つに割って舌先でそっと舐めてびっくり。
雪をかぶる季節の樹上完熟でもどこか渋みが残っているものがありますが、全く感じられません。
渋抜きや干し柿、樹上完熟でこれまでどれほどこの柿を食べてきたか分かりませんが、最高の味のような気がします。
時がたてば彼らに引き続き後続部隊が当然のごとく現れるものと思い込んでいたのですが、完熟したのはその10数個だけ。
とはいえ、完熟しているものがあるということは全体に熟度が相当に進んでいるということか、と慌てて近くの柿をもぎ取り焼酎で渋抜きしてみましたが、残念ながら甘みのうすーい柿しかできませんでした。
この10数個だけが特別で、あとはごく普通の生育状態だったのですね。
10数個は南側のやや下の方の枝になっていたのですが、超スピード樹上完熟の原因のなんたるかはこの辺にあるのでしょうか。
もっとも素人には貴重な体験と味をプレゼントしてもらっただけでも十分です。
(2024/10/31 辻蕎麦HP)