やまがた辻蕎麦 のすべての投稿

2024年 10月~11月号 辻蕎麦便り

ここ数年、異常気象が思いもよらないことを引き起こすことはわがささやかな菜園でもしばしばありました。
その多くは後で振り返ると、多分あれが、とおぼろげながらも原因にたどりつけました。
しかし、今回の出来事は皆目見当がつきません。
いまだに頭の中は「?」でいっぱいです。

ことしの柿はいつもの年より色づきが早く、月を越して間もなく日々緑色が薄まり赤身を帯びていきました。
わが菜園の柿の木は80年近い樹齢を数える平核無(ひらたねなし)の老木ですが、有難いことにそんなに頑張らなくてもいいよと労わりたいくらいたくさんの実をつけます。
柿は裏作、表作があり、しっかり剪定と摘果をして管理しないと収穫量は年ごとにかなりばらつきが生じます。
昨年も多かったが、ことしもやたら多いので、6月から7月にかけて懸命に摘果作業を行いました。
下のほうは一枝に1個から2個とセオリー通りですが、上の方は葉に覆われていたところを見落としたらしく、あちこちがブドウの房のようになっています。
全体で7、800個くらいはなっているでしょうか。

今月上旬、数日目を離したすきに珍事は起こりました。
徐々に緑色が薄まる仲間をしり目に、音速どころか光速のような猛スピードで熟成している実が10数個あったのです。
例年なら11月中旬ころからでないと目にしない真っ赤に色づき太陽の光を浴びると内側が透けて見えるような樹上完熟柿が生まれていました。
平核無は渋柿ですので、焼酎などによる渋抜きか干し柿にしなければ食べられません。
ところが10数個のうちの1個を鳥が啄んでいたのです。
それを見た柿好きの連れ合いが「鳥が食べるくらいだから、渋くないんじゃない」と止める暇もなくパクリ。
「中はトロトロで渋みは全くない。それに甘みもしっかりあり、収穫し残した樹上完熟柿より上品な味がする」
と満足げな笑顔で2個目に手を伸ばす。
こうなると黙ってみているわけにはいきません。
1個もぎ取り、2つに割って舌先でそっと舐めてびっくり。
雪をかぶる季節の樹上完熟でもどこか渋みが残っているものがありますが、全く感じられません。
渋抜きや干し柿、樹上完熟でこれまでどれほどこの柿を食べてきたか分かりませんが、最高の味のような気がします。

時がたてば彼らに引き続き後続部隊が当然のごとく現れるものと思い込んでいたのですが、完熟したのはその10数個だけ。
とはいえ、完熟しているものがあるということは全体に熟度が相当に進んでいるということか、と慌てて近くの柿をもぎ取り焼酎で渋抜きしてみましたが、残念ながら甘みのうすーい柿しかできませんでした。
この10数個だけが特別で、あとはごく普通の生育状態だったのですね。
10数個は南側のやや下の方の枝になっていたのですが、超スピード樹上完熟の原因のなんたるかはこの辺にあるのでしょうか。
もっとも素人には貴重な体験と味をプレゼントしてもらっただけでも十分です。

(2024/10/31 辻蕎麦HP

2024年 9月~10月号 辻蕎麦便り

「風流だね。スズムシでも飼っているの」。
首都圏に住む友人と電話している最中、急に話の流れと関係ない話題に。
「家の中には虫籠もなければ、スズムシも飼っていないよ。そうか、この鳴き声?庭の虫たちだよ」。

住宅街のど真ん中にあるわが家ですが、近年、猫の額よりはるかに狭い庭でスズムシやコオロギなどが毎晩のように大合唱を繰り広げております。
以前はそれこそはかなげな音色で、涼風と共に秋の訪れを告げる風情ある便りでした。
しかしここ2、3年、合唱隊が大増員を図っているのか、家の中にいても耳元で鳴いているではないかと勘違いするくらいの大音響になってきました。
電話越しにその音色が届いても不思議でありません。
虫の音と無縁の大都会に住んでいるせいか、さぞ羨ましかったのでしょう。
「毎晩、コオロギやスズムシの鳴き声をバックに一杯やれるなって、いいな」と同じような内容の話を繰り返していました。

「ほかにどんな虫がいるの、姿は見ているの」などと突っ込まれても、門外漢の悲しさで、説明できる材料を持ち合わせておりません。
なぜ毎晩のように大合唱を繰り広げるようになったのか、さすがに気になり、インターネットを覗いてみました。
どうやら近年の気候が関係しているのではないかということです。
きちんとしたことは分かりませんが、様々な虫たちが大量発生しているのは事実です。

山形の秋の風物詩「芋煮会」が各地で繰り広げられています。
その主役のサトイモに関する珍しいニュースが地元の新聞に掲載されておりました。
県内の農家が栽培したサトイモで花が咲いたというのです。
毎年、サトイモを手掛けていますが、花を見た記憶は全くありません。
サトイモは東南アジアのマレーシア周辺が原産地の熱帯植物。高温、多雨、多湿、日照などさまざまな条件がそろわないと花をつけないようです。
写真で見るサトイモの花は水芭蕉の花によく似ていました。
日本でお目にかかるのはかなり難しいとか、それが北国山形で咲いたのですからすごいですね。
山形は温帯でなく、熱帯モンスーン気候になってしまったのかな。

わが菜園ではことしもサトイモを植えました。
7月くらいまでは順調に育っていたのですが、8月に入ると片端から茎が倒れて80%くらいがダメになりました。
最初はネズミの仕業かと思いましたが、根元に潜り込んだ穴が見つかりません。
どうやらネキリムシの一種にやられたようです。
猛暑で大量発生したのでしょうか。
楽しみにしていた芋煮ですが、残念ながら口惜しさと腹立たしさが入り混じった味になりそうです。
同じ熱帯山形でも、害虫の大量発生でなくサトイモの花なら大歓迎なのに。

(辻蕎麦HP 2024/09/30)